弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年6月29日
時を刻む湖
生物
(霧山昴)
著者 中川 毅 、 出版 岩波現代文庫
若狭湾の近くに水月湖という小さな湖があります。私も近くをバスに乗って通過しました。今では、この水月湖から掘り上げられた年縞を展示している博物館があります。ここらは、周囲に森と泉があるくらいで、特に他に見世物があるのでもありません。ところが世界が注目している場所(湖)なのです。
この博物館のすごいのは、水月湖から引き上げられた7万年分の年縞の全部が45メートルにわたって展示していること。では、いったい、その年縞って、何なの...。
福井県にある小さな湖(水月湖)が世界的に注目されたのは2012年10月18日のこと。
「世界一精密な年代目盛り、福井・水月湖、堆積物5万年分」
これは当初の記者発表によるものです。
水月湖の年縞(ねんこう)は、氷期の寒い時代には1枚が0.6ミリ、その後の暖かい時代には1.2ミリメートルほど。水月湖は埋まらない湖。
水月湖の湖底には、季節ごとに違う物質が堆積している。水月湖は、周囲を高い山に囲まれているため、日本海の強風が直接吹きつけることはない。また、水深34メートルと深いので、通常の波では湖底の水までかき混ぜることは出来ない。つまり、波や風では、湖底に酸素を供給することができない。そこで、湖底にセ氏4度の水ができる。酸素のない死の世界。
湖底にパイプを突き刺して湖底の下の年縞を引き揚げる。パイプの外側に小さな金属の突起をつけて、回収率を劇的に向上させた。
永らくメートル原器が使われてきた。しかし、金属の棒だと時間がたてば変質していってしまう。今では1メートルの定義はまったく異なってしまっていて、目で見ることはできない。
本書が発刊されたのは2010年のこと。それから10年以上がたち、さらに進展がある。水月湖の年縞は今では世界的な標準のモノサシになっている。そして博物館で年縞を目の前で見ることができる。
それにしても7万年分のすべてが45メートルのステンドグラスごしに観察できるなんて、信じられませんよね。なにしろ目の前に7万年の歳月を示しているものが見れるというのです。まさしく地球は生きているということです。ぜひ現物を見てみたいものです。
(2024年12月刊。930円+税)