弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年6月30日
アンパンマンと日本人
人間
(霧山昴)
著者 柳瀬 博一 、 出版 新潮新書
日本の幼児の一番好きなキャラクターは、なんといってもアンパンマンです。孫たちもアンパンマン大好きでした。小学生になったら卒業してしまいましたが...。
アンパンマンの絵本は、なんと8100万部を突破している。そして、2300をこえる豊富なキャラクターもいて、アンパンマン関連の市場規模は累計600億ドルに達する。全国に5ヶ所あるアンパンマンミュージアムの年間入場者は300万人以上。日本の乳幼児中心なのに、ビジネス規模は年間1500億円で、世界6位を誇っている。
やなせたかしは、1919年生まれで、アンパンマンを生み出したときは54歳、テレビアニメのときは69歳だった。
アンパンマンは、冴(さ)えない中年男として登場した。はじめは大人のメルヘンとして描いたもの。アンパンマンは平成以降のヒーロー。なので、私の子どもたちのころにはいなかったのです。
今や、子育てを助けてくれる最高のヒーローになっている。1~3歳の支持率は圧倒的。アンパンマンは、子どもたちだけでなく、親からも信頼されているのが、最大の強み。
アンパンマンに触れ始めるのは0歳から2歳のときで、卒業は4~6歳の幼稚園のころ。
アンパンマンの客は親子一体。親の決定に委ねられている。アンパンマン映画の映画館は明るいままで、暗くはならない。アンパンマンが登場すると、子どもたち全員がピタッと泣き止み、アンパンマンの一挙手一投足にクギづけになってしまう。アンパンマンが敵に反撃すると、「がんばれ」と声援を送る。5分に1回はアンパンマンの出番がある。映画館を出るとき、子どもも親もニコニコ満足の笑顔。
アンパンマンのキャラクターは、みな徹底してモダンなスタイルでデザインされている。そして、そのワールドは、山と川と海に囲まれた「田舎の村」。アンパンマンの世界は、シンプルな描線と影のないフラットで鮮やかな配色で構成されている。
やなせたかしは、東京高等工芸学校で商業美術つまり広告デザインを学んだ。そして兵隊にとられ、中国大陸に行っている。このとき食べるものがない。喰わないと死んでしまうという状況に置かれた。この体験がアンパンマンに生かされている。
死なずに帰国してからは、高知新聞社に入り、雑誌をつくり始めた。そして、そこで、妻になる小松暢と出会う。NHKの朝ドラの主人公です。妻の「いだてんおのぶ」は、ちょっと気が弱くて、自身のないやなせさんを励まし続けました。
アンパンマンは常に淡々としている。増長しないし、メロメロにもならない。
3.11大震災のあと、ラジオから流れてきた「アンパンマーチ」を子どもたちが一斉に歌い出した。この話には感動しますよね。
「何のために生まれて何をして生きるのか、答えられないなんて、そんなのはいやだ!」
やなせたかし自身がアンパンマンだった。
お腹をすかしている人に、自分の顔をちぎって与えるなんて、突拍子もないんですけど、子どもたちは何の苦もなく受け入れるのです。そして、パン工場でおじさんに顔を再生してもらうのです。
いい本でした。アンパンマンを赤ちゃんが好きになる理由が、やなせたかしの人生を掘り下げるなかで納得できるのです。
(2025年3月刊。880円+税)