弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年6月21日
漢字はこうして始まった。族徴の世界
中国
(霧山昴)
著者 落合 淳思 、 出版 ハヤカワ新書
3000年以上前、中国最古の王朝「殷(いん)」で発明され、部族固有の徴章(シンボル)として青銅器に鋳(い)込まれた原初の漢字、「族徴」を紹介した新書です。
かつて殷代の社会は氏族制だと考えられていた。実際の血縁で結ばれた集団が社会を構成していると考えられていた。しかし、近年の研究では、「氏族(クラン)」とは、必ずしも実際の血縁ではなく、仮想の祖先説話によって結合している集団だと考えられている。「同じ血筋である」という概念を共有する集団だと考えられている。その象徴のひとつとして族徴が用いられる。
複数の血縁集団が仮想の祖先を共有して、氏族を形成したら、実際の血縁関係がないので、氏族の結束を強固にする必要がある。そこで、氏族を象徴する族徴が必要とされた。そのうえで、実際の血縁で結ばれた氏族にも族徴が普及したと考えられる。
殷が滅亡したあと、殷系の諸族は文化を維持し、族徴を使い続けた。しかし、次の周の文化では族徴を使うことはなかった。その代わり、より大きな単位として、「姓」という社会組織を持った。姓は結婚に関わる組織であり、結婚は必ず異姓の間でなされ、同姓同士は結婚できなかった(同姓不婚の原則)。春秋戦国時代になると、族徴は使われなくなった。
族徴は、家族(リネージ)よりも大きな単位である氏族(クラン)を表示する機能を有していた。
族徴は青銅器だけでなく、印章(印鑑)にも使われた。族徴は漢字の一種であり、「徴」は「しるし」という意味のコトバ。
動物に由来する族徴がある。牛は貴重品だった。中国には黄河流域にも長江流域にも象が生息していた。黄河流域には虎も生息していて、人々に恐れられていた。
殷王朝は戦車を主力兵器としていた。大諸侯は千台ほどの戦車を保有していた。
皇帝は気前よくばらまくことが求められた。そして、この「ばらまき」に適した「威信財」として、宝貝が多用された。宝貝は、王のみが入手でき、王が与えるものだった。
青銅器に剛り込まれた古代文字を解読していくのも楽しそうですね...。
(2025年2月刊。1240円+税)