弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年5月26日
アリの放浪記
生物
(霧山昴)
著者 オドレー・デュストール、アントワーヌ・ヴィストラール 、 出版 山と渓谷社
現在確認されているアリは1万3800種もいる。この本には、そのうちの75種が紹介されている。アリを観察することは、アリの知恵を学ぼうとすること。
アフリカのマダベレアリは、仲間のアリが足を怪我すると、看護師さながらに容態を確認したあと、唾液(だえき)で傷口を念入りに消毒する。そして、患者の脚に喰いついたシロアリの9割を取り除く。治療を受けたアリたちの9%が生存し、数日間の療養期間のあと、再び狩りに参加できるようになった。
北アメリカの砂漠地帯に生息するフタフシアリは、クモの罠にかかってしまうと警報フェロモンを放出して助けを求める。すると、フェロモンを感知した仲間たちがすぐに駆けつけて、命がけの救助を開始する。助けに来たアリの6%は、自らがクモの餌食となってしまう。
ほとんどの種のアリは、れっきとした墓地を造成する。しかし、この墓地に埋葬するのは死んだ仲間だけ。仲間の死骸は丁寧に扱われ、辱めを受けることなく、安息の地へ運ばれる。これに対して、闘争で命を落とした敵の死骸は、血液をたらふくすすったあと、腹を裂かれてバラバラにされた残骸をゴミ捨て場に投げ捨てる。仲間の死骸を墓地まで運ぶのは、衛生上の理由から、なるべく巣から離れた場所に運んで、病気の蔓延を防ぐためでもある。
毒アリとして日本でも警戒されているヒアリは、アナフィラキシーショックと呼ばれる激しいアレルギー反応を引き起こすことがある。アメリカでは、年に1000万人がヒアリに刺され、平均して10人が亡くなっている。
ヒアリは電流に引き寄せられるので、配電盤やパソコンの内部に巣をつくり、甚大な被害を生じさせている。また、ヒアリは、信号機の内部にも棲みつくことがある。
ヒラズオオアリは、捕食者に襲われたり、縄張り争いで敵と対峙すると、相手にしがみつき、あごの筋肉を一気に収縮させる。その圧力によってアリの腹部の膜が破裂し、分泌腺の中身が放出される。粘性と腐食性のある液体は、炎症を引き起こすだけでなく、空気に触れると固まる特性をもつ。この液体を浴びて身動きがとれなくなった相手は、だんだん体の自由を失っていき、数秒後には死んでしまう。まさに自爆攻撃です。
多くのアリは、仲間同士で触れあったり、なめあったり、抱きあったりしながら多くの時間を過ごしている。
感染症のもとになる菌を巣にもち込むのは、主として外をまわる採餌アリ。
アリは、太陽光を手がかりとして方角を把握している。そして、それは雲で太陽が隠れても通用する。空の一部分が見えてさえいれば、偏光を検知して方角を把握することができる。偏光とは、振動方向が一定になった光のこと。
アリは、平面上のうねりだけでなく、上下の起伏も計算に入れ、巣までの正しい距離を算出できる。
オモヒロルアリは、意図して植物(スクアメラリア)を育てている。アリは、死ぬまで、ずっとこの植物に肥料を与え続ける。草食動物が近寄ってきたら、全力で植物を守る。
このアリはただ運まかせに種を植えているのではなく、影になる場所を避け、日当たりのいい場所を選んで種を植えていた。
こうやってアリの生態を知ると、アリに知性がないなんて、とてもそんなことは言えないと思ってしまいます。
足元で行列をつくっているアリたちをつくづく見直してしまう本でした。
(2025年1月刊。3190円)