弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年6月 7日
土と生命の46億年史
生物
(霧山昴)
著者 藤井 一至 、 出版 講談社ブルーバックス新書
恥ずかしながら知りませんでした。私の身近にありふれている土。私の自慢の庭は、黒々、フカフカの土で埋め尽くされています。だから、すぐに雑草がはびこってしまいます。
全知全能にも思える科学技術をもってしても、作れないものが二つある。それは、生命と土。いやあ生命のほうは、そう簡単に人間が作りだせないとは思いますが、土ならつくるのは簡単じゃないの...、とついつい思ってしまいます。ところが、土は作れないというのです。
そもそも、土とは何なのか...。土は人間には作れない。なぜ、どうして...。
土とは、岩石が崩壊して生成した砂や粘土と生物遺体に由来する腐植の混合物である。ここで重要なのは、腐植は生物、つまり動植物や微生物に由来するということ。
これは、地球上に生命が誕生する40億年前まで、いや陸上に植物が上陸する5億年前まで、地球上に腐植はなかった、なので、土も存在しなかった。うむむ、そ、そうなんですか...。
土は主として酸素とケイ素とアルミニウムから出来ている。生命はアミノ酸の集合体。
ところが、環境中にアミノ酸はごく微量しか存在しない。
粘土がなかったら生命誕生はなかった可能性がある。粘土と砂は、生物のすみかにもなる。
4億年前に登場した根は土にエネルギー(炭素源)を吹き込む。
動物は、土と植物に関わりあいながら進化し、土壌の発達に関わってきた。
リンを岩石から取り出す能力は、植物と微生物にしか備わっていなかった。炭素と窒素とリンの循環に余剰が生まれるまで、多くの動物は上陸できなかった。
ミミズは、4億年ものあいだ生き延びている。ミミズの上陸は画期的だった。ミミズの通路やフンによって団粒が増え、4億年前の硬くて浅い土を透水性や通気性の良いフカフカした土へと変貌させた。
恐竜の巨大化は、背の高い針葉樹やイチョウを食べ、分解しにくい葉を腸内でゆっくり発酵・消化するのに好都合だった。
巨大化した恐竜は温暖な環境に適応したスタイルであったので、寒冷化に対応できず、絶滅した。巨大隕石だけでなく、チョーク、石油そして土という身近な存在が恐竜の絶滅に関わった。
鉱物と植物・微生物との相互作用が土をつくる。
土も変化を続ける。土にも寿命がある。
成分の50%が鉄であるラテライトは、いわば土の墓標だ。土の最後の姿であり、もはや土ではないので、食料生産は出来ない。
粘土の電気がなくなると、栄養保持力が低下し、肥沃な土ではなくなる。
人間の身体のリンの4割は、クジラなどの骨の化石に由来している。骨の主成分は、リン酸カルシウムだ。
生命のない惑星に土はない。土のないところにジャガイモは育たない。
月に基地をつくっても、土がないので、植物を育てることは出来ない。地球から持っていくには、土は重すぎる。
地球上には1兆種類もの土壌微生物が存在する。しかし、99%の土壌微生物は実験室では培養できない。いやあ知りませんでした。
ジャガイモを先日、大量に収穫し、これからサツマイモをどこに植えつけようかと思案中なのですが、土がこんなにも貴重なものだったとは、恐れ入り屋の鬼子母神でした。
(2025年3月刊。1320円)