弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年6月 3日
眼述記
人間
(霧山昴)
著者 髙倉 美恵 、 出版 忘羊社
脳梗塞で倒れた「毒舌」の夫と文字盤でバトルしながら駆け抜けた10年の記録。
これが本のオビのフレーズです。夫は全身マヒになったので、その意思表示はアイコンタクト。文字盤を目線で指し示し、それを読みとるのです。いったい、どうやって...。
透明の塩ビ板(厚さ1ミリ、幅30センチ長さ45センチ)を挟んで、互いの目と目の間を60センチほど空けて見つめあい、視線がぶつかりあう真ん中の文字を読む。
これって意外に難しそうですよね。でも、慣れたら、それなりのスピードで読みとれ、意思疎通が出来るそうです。
目線が動くことで見えていること、脳がその限りでしっかりしていることが判明してからのことです。脳梗塞と脳出血で倒れてから4ヶ月たったときでした。そして、初めてのコトバが「されるな」だったのです。夫からすると、食事のあと、すぐにマッサージするのは止めてくれという意思表示でした。もちろん、あとで分かったことです。妻からすると、夫のために一生けん命マッサージしているのに、「されるなって、何やねん」という思いでした。戦争のため植物人間のようになった「ジョニーは戦場へ行った」という映画をつい思い出しました。
新聞記者をしていた夫は、気がついたときには体が動かず、声も出せない。しかし、意識のほうは清明。それを妻や家族そして周囲の誰にも伝えることが出来ないという苦しみに陥っていたのです。作家の葉室麟の担当をしていたので、葉室麟がよく病室にも自宅にも見舞いに来たそうです。残念ながら葉室麟のほうが先に亡くなりました(2017年12月)。
夫が病院を退院するときの担当者会議には、なんと22人もの参加者があったとのこと。驚きました。病院スタッフと自宅でのケアに加わる人たちなどです。このときの心境を夫は、「地面に落ちたあめ玉みたい」だったと号泣した。
介護が辛いのは、家族の世話をすること自体ではなく、そのために介護以外のことをする時間がとれなくなること。なーるほど、それは辛いですよねゆっくり本を読んだり、テレビを見たり音楽を聞いたり、はたまたコンサートに出かけたりが、ほとんど無理になりますよね。
そして、車イスで動けるようになってから、映画好きの夫の希望で車イス席のある映画館に出かけるようになります。博多駅の9階にあるTジョイにはよく行っているようです。
訪問入浴は週2回、日額1万3千円。45分間のうちに洗いあげ、健康状態チェックまでしてくれる。
車イスでの外出介助は、担当に骨の折れる仕事だ。道路のデコボコや歩道の傾きに気をつけておかないと車イスごと転倒しかねない。街中は命に関わる危険に満ちている。
体が疲れるというより、神経がすり減ってしまう。深刻で大変だけど、笑える部分は大いに笑ってほしいと著者は書いています。私も遠慮なく、ところどころ大いに笑わせてもらいました。
夫はずっと笑えなかったようです。それどころか、よく号泣しました。感情失禁という、脳出血にともなう後遺症なのです。感情のコントロールがしづらくなり、すぐに怒ったり泣いたりするのです。夫は、ちょっと心が動くと、勝手に嗚咽(おえつ)が出てしまうので、あまり気にしなくてよいと説明。そうなんですか...。
まあ、本当に大変な介護生活ですが、すでに10年も続けているわけです。これからも、適当に息抜きしながら、やっていってくださいね。心温まる、いい本でした。
(2025年2月刊。1750円+税)
日曜日、午後からジャガイモを掘り上げました。まず、試し掘りをしてみたら、大きいものが出てきましたので、これなら大丈夫だと、掘り上げていきました。月曜日は雨が降るというので、それなら全部を掘り上げようと思い、がんばりました。
今年は大豊作でした。皮の紅い、サツマイモのようなジャガイモが半分です。これで、ポテトサラダそしてコロッケをつくってもらったら最高です。
小さいのは、そのままオーブンで焼いて食べました。ホクホクして美味しい味でした。
夕方、暗くなってから近くの小川にホタルを見に行きました。歩いて5分のところです。今年は、たくさんのホタルに出会えました。フワリフワリと飛んでいるホタルをそっと手の平に乗せてみます。すると、またフワリと飛んでいきます。ゆっくり、あわてず、そして一斉に明滅するホタルの姿を見ると、まるで夢幻の里にいるかのようです。