弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2022年12月17日

キリンのひづめ、ヒトの指


(霧山昴)
著者 軍事 芽久 、 出版 NHK出版

 ヒトの大腿骨はまっすぐな骨ではなく、10度ほど傾いている。ヒトは直立すると、股関節は身体の横のほうにあり、膝は身体の中心線上に位置する。だから、大腿骨が斜めになっているのも当然のこと。うひゃあ、そ、そうなんですか...。
 ヒトは、この構造のおかげで身体の重心の真下に足をつくことが可能になり、安定した歩行・走行ができるようになった。
 チンパンジーには大腿骨の傾斜はなく、ヒトの新生児にもない。足はむしろ外側に広がるようになっているが、これは母親に抱きつきやすくするため。
 キリンの足は、半分が「足の裏」。足の裏に相当する部分の長さは70~80センチもある。
 キリンやウマと同じく、いずれも地面についているのは指先だけで、かかとは浮いている。
 キリンの首の長さは2メートル。キリンもヒトも、首の中にある頸椎という骨の数は7個。一つひとつの長さが異なるだけ。哺乳類の頸椎の数は、みんな7個。ただし、ナマケモノとマナティは違う。
 ところが著者は、キリンの8番目の首の骨を発見しました。大発見です。本来なら動かないはずの第一胸椎が15度ほど動く。キリンの首元にある8番目の「首の骨」は哺乳類の頸椎は7個という基本ルールを守ったまま、首の可動範囲を広げて、高いところの葉を食べる、地面の水を飲むという二つの目的を同時に達成することを可能にした。
 胃でセルロースを分解する動物たちより、大腸で分解する動物たちのほうが巨大な体をもつように進化したものが多い。大腸内に微生物を飼う動物たちの消化は、「多少の無駄には目をつぶり、たくさん食べて、たくさん出す」ことを可能にするやり方だ。
 ゾウは大量の植物を食べ、森を切り拓(ひら)きながら生きている。同時に、さまざまな場所でウンチをして、新たな森へとつながる「種まき」もしている。
 キリンの45センチもある舌は黒っぽい。これは舌の日焼け大作ではないかという仮説がある。
 ヒトは、血液が体内を1周するのに20秒かかる。キリンはもっと遅くて1周45秒ほど。
 キリンは身体の大きさの割には肺が小さい。肺の容積はヒトの8倍ほど。体重はヒトの15倍ほどもあるのに...。
 前の『キリン解説記』(ナツメ社)がとても面白かったので、その続編と思って読みました。とても面白く、知的刺激にみちた本でした。
 
(2022年10月刊。税込1650円)

2022年12月12日

小さな里山をつくる


(霧山昴)
著者 今森 光彦 、 出版 アリス館

 この春、私の庭の一隅にフジバカマを5株だけ植えつけました。夏の日照りと強風のせいで、うち1株は枯れてしまいましたが、残り4株はすくすくと育ってたくさんの小さな花をさかせました。白っぽい小花とチョコレート色の小花がぎっしり咲いたのでした。
 ところが、残念なことにアサギマダラは来てくれませんでした。それでも、少し離れたところに住む知人が、もう何年も庭に来ていたアサギマダラが今年は来なかったと嘆いていました。そこは、そんなに広い庭ではありませんから、うちにだってアサギマダラは来てくれるはずだと大いに期待しています。今年は早々にフジバカマをネットで注文して取り寄せました。一気に、とはいきませんが、幅1メートル、10メートルの長さのフジバカマ畑をつくってアサギマダラを招くつもりなのですが...。
 著者は、なんと75種類ものチョウのすむ(やってくる)庭というか、里山をつくっています。絵本のような、写真集のような本書に、もちろんアサギマダラもうつっています。少し紹介します。
 秋には、旅人のお客さんがやって来る。著者のつくったチョウの庭にすみついているのではなく、成虫だけが訪れる。アサギマダラだ。暖かくなると北上し、涼しくなると暖かい地方に南下する、旅をするチョウだ。毎年やってくるが、滞在するのは、ほんの数日間だけ。根っから旅好きのチョウなのだ。
 いやあ、驚きますよね。このアサギマダラは、台湾から長野県までを行ったり来たりしているというのです。
 アサギマダラの羽にはリンプンがないので、羽に油彩ペンでナンバリングできるのです。その記号によって、いつ、どこにいたというのを後づけで知ることができます。とても気の長い根気のいる作業です。それでも全国にそんな人たちの観察努力によって、アサギマダラの飛翔行為の全容が判明したのですから、たいしたものです。
 著者はチョウたちを呼ぶ庭づくりをはじめました。すごいです。木を植え、花を植えていきます。
 チョウにも好みがあります。たとえば、アゲハチョウはボタンクサギの常連客です。このボタンクサギは、わが家の庭にも自生していますが、自生能力が高いのはいいとして、ともかく臭いのです。なので、私は、見つけ次第にひっこぬいています。ところが、クロアゲハの大好物のようです。ちっとも知りませんでした。
 それにしても、たくさんのチョウの名前をよく知っていること、その特性・好みを生かした庭(里山)づくりをするなんて、すごいことです。秋から冬にかけて、枝打ちもしますし、大きな木も伐採することもあります。そんなときにはチェーンソーを使うのです。慣れてないと恐い作業です。
 久しぶりに手にとって見直しました。楽しい、大判の写真集です。
(2021年5月刊。税込2640円)

2022年12月 5日

歌うサル


(霧山昴)
著者 井上 陽一 、 出版 共立出版

 日本で高校教師をつとめながら、マレーシアのボルネオ島に20年以上も通ってテナガザルを研究した成果がぎっしり詰まった、とても面白い本です。
 著者のテナガザル研究を家族あげて支えたことが「あとがき」に紹介されていることに、私は激しく心を打たれました。著者の妻はボルネオでの現地調査に同行し、日本でも動物園での実験を共同で実施。二男も現地調査に同行して写真を撮影。長男の妻はイラストを描き、長男と二男の妻は著者の原稿を読んでコメントした。いやはや、なんともすごファミリーです。うらやましい限り、としか言いようがありません。
 著者は京都大学農学部を卒業し、公立高校で地学を教えていました。春休みに1週間の休みがとれるので、『地球の歩き方』にマレーシアのボルネオ島の記事があるのを目にして、思い切ってボルネオ島に行ってみたのがテナガザルとの出会いでした。
 テナガザルは木の上で暮らす。地上付近から高度65メートルまで、縄張りをもつ。30年生きているのが確認されている。
 家族のつながりは深く、隣グループの他者に寛容。主食は果実で、副食は若葉。
 テナガザルは、数日かけて縄張り内の全域を移動する。テナガザルは泳げない。なので、川や池に降りて水を飲むことはしない。木の洞(うろ)に溜まった水を手ですくって飲む。トイレの場所もある程度決まっている。
 テナガザルの遊びは、追いかけっことレスリングが主。父と子、兄弟・姉妹のあいだで行われる。母と子の遊びがまれでしかないのは、母は3~4年おきに出産するため、妊娠しているか、子を抱いて授乳しているか、が多いから。
 森の一斉果実の時期には、テナガザルは1日の移動時間と行動時間をのばすが、同時に社会交渉の時間も増やした。生殖目的でない交尾行動もする。
 生活が保障されると、生きていくために必要な、食べる、移動する、休憩する、寝る、という行動に加えて、歌う、遊ぶ、グルーミングする、生殖目的でない交尾をするという、生きていくためには直接必要のない余分な行動がふえる。
 テナガザルは歌う。雄(オス)の歌はソロ、雄と雌(メス)が鳴きかわすのはデュエット。この二つがある。
 夜明け前の森に、まろやかで澄み切ったオスのソロが響く。周辺グループのオスが次々に呼応して、合唱になっていく。午前5時すぎから、夜が明けて7時ころまで。歌は数分間から、ときに3時間も続く(平均は31,5分)。夜明け前の静かな森で、隣りあうグループは、お互いのコミュニケーションをとっていると考えられる。
 デュエットは、夜明け後に始まり、午前中に歌われる。あるグループがデュエットを歌い終わると、それに続いて隣のグループが歌いはじめ、その歌が終わるとまた別の隣のグループが歌いはじめといったように、デュエットの連鎖が起きる。
 食べ物が保証され、捕食圧(食べられてしまう危険度)から解放されると、歌は複雑になる。
 著者は私たち団塊世代より少し下の世代ですが、ともかく熱帯雨林のなかでのテナガザルを20年にもわたって現地で毎朝4時に起床して、午前5時に調査助手とともに森に入り、あとは、午後4時ころまで森のなかにいるというのです。とても忙しいそうです。ともかく、脱帽というほかはありません。
 本文120頁足らずの、小冊子のような本です。ご一読をおすすめします。
(2022年9月刊。税込1980円)

2022年11月28日

ナメクジの話


(霧山昴)
著者 宇高 寛子 、 出版 偕成社

 なぜか、わが家の台所にドデーンとナメクジが鎮座ましますのを発見することがあります。本当に不思議です。外から侵入してくる経路はそんなにないはずなのですが...。
 というわけで、ナメクジとは、いったいいかなる生物なのかを知りたくて読んでみました。
 とても分かりやすいナメクジの話です。でも、実のところナメクジは謎だらけの生物だということが分かりました。カラー写真がありますので、わが家のナメクジは記憶に照らしあわせると、日本古来のナメクジだと思います。
 日本にずっといるナメクジは、全体的に太くて、灰色。この本の著者が主として研究しているのは、チャコラナメクジ。背中に2本から3本の黒い線がある。
 ナメクジは貝の仲間で、タコやイカと同じ、軟体動物。ナメクジには殻はない。そして陸にすんでいるのに「貝」。陸にいる貝のうち、大きな殻をもつのをカタツムリと言い、殻をもたないのをナメクジと呼ぶ。
 ナメクジにも人間と同じように顔があり、皮膚の下には、脳・心臓・肺などがある。顔は、ふだんは体のなかに隠している。
 ナメクジの目は、明るいか暗いかが分かるだけ。においを感じる能力のほうが強い。
 ナメクジは、なんでも食べる雑食。ミミズや昆虫も食べる。
 口には、大根おろし器のように小さい歯がたくさんついた「歯舌」(しぜつ)があり、これをエサに押しあてて、ゴリゴリと削って食べる。
ナメクジは、1匹のなかにオスとメスの両方の機能をもっている。しかし、ほかの個体と交尾することによって、初めて卵をつくることができる。ナメクジは交尾したあとしばらくして卵を産む。
 ナメクジのべたべた粘液は乾燥から身を守っている。また、粘液の上で腹足を波打つように動かして前進する。だから上下に波打ったり、くねくねする必要がない。ただし、ナメクジは前にしか進めない。後退できないのですね。
 ナメクジの寿命は、短くて数ヶ月。長いものは2~3年ほど。そんなに生きるのですか...。
 ナメクジに塩をかけても溶けているのではない。水分を失って、身が小さくなるだけのようです。
 ナメクジには光周性がある。
 ナメクジを飼って育てるにはタンパク質が必要。金魚のエサや固形のドッグフードも買って与える。
 ナメクジへの多くの人々の反応は、「ギャアア...」が多い。そこで、やはり「敵」の実体を知っておくべきなのですよね、きっと...。面白い本でした。
(2022年9月刊。税込1650円)

2022年11月21日

カタニア先生は、キモい生きものに夢中!


(霧山昴)
著者 ケネス・カタニア 、 出版 化学同人

  鋭い感覚の奇妙な鼻をもつホシバナモグラが真っ先に登場します。
なに、何、このイソギンチャクみたいな鼻が、いったい何のために地中を掘って生活するモグラにあるのかな...。こんなヒラヒラするものが鼻の先について、地中を掘り進むのに、いったい邪魔にならないのかしらん。うむむ、どう考えても不思議だ、フシギ。
ホシバナモグラは、モグラの一種なのに泳ぎが得意。北アメリカのもっとも寒い地域で、冬眠もせずに生活している。
ホシバナモグラの鼻の「星」は嗅覚器官ではなく、触覚受容器。ホシバナモグラの鼻の先の星には、ヒトの手の触覚神経線維の6倍が集中している。
ホシバナモグラは、恐らく、地球上でもっとも高感度であり、高解像度の触覚系だ...。
ホシバナモグラは、世界一食べるのが速い哺乳類。これはギネス世界記録として認められている。ホシバナモグラは、小さくしてじっとしている獲物を、瞬時に見つけて食べる。しかし、高速移動する相手を追いかけて捕まえるのは、まるで下手。
魚は「見たものを信じる」のではなく、「聞いたものを信じる」。魚の聴覚は実に速い。
平原にすむミミズを捕獲する。そのためには、鉄の棒を地中20センチまで打ち込む。それから、杭の頂上を鉄の棒でこすりはじめた。低い振動音が土のなかに反響し、森中に広がる。すると、まもなく巨大なミミズが地面にはいあがってくる。モグラが掘りすすんで近づくと、ミミズは地表に逃げている。
次は獲物を麻痺(まひ)させてしまうデンキウナギ。強力な電気を、いったいどうやって発生させ、自分の身は損なうことなく獲物だけをしびれさせるなんて、まさしく神業(かみわざ)...。
デンキウナギは、全魚の体の動きのすべてをわずか3秒以内に一時停止させる。
エメラルドゴキブリバチは、ゴキブリを殺さず、一時的に麻痺すらさせなかった。このハチは、獲物となったゴキブリを何も考えずに従順に従うだけの奴隷にさせる。ゴキブリの胸部にハチは毒針を挿入する。毒針にあるセンサーを使い正確無比な第1弾をお見舞いする。ゴキブリは、生きたまま、ハチの幼虫に食べられる。ゴキブリは反撃もせず、ハチの幼虫に生きたまま食べられる。
不思議、ふしぎ、フシギ...。世界は本当に不思議に満ち充ちています。
フシギをそのまま放置せず、不思議なものとして追跡を始めようと呼びかけている本でもあります。
(2022年8月刊。税込2530円)

2022年11月19日

もえる!いきもののりくつ


(霧山昴)
著者 中田 兼介 、 出版 ミシマ社

 いろんな生き物をめぐる不思議な話が満載です。
 托卵(たくらん)とは、たとえば、カッコウは自分で巣をつくらず、違い種類の鳥の巣に卵を産みつける。 托卵される側が、なぜ他人の子を受け入れるのか...。
 托卵を受け入れたときにはあまりない、コウウチョウによる襲撃が半分の巣で起きた。これは、みかじめ料を要求し、それを拒否した店をめちゃくちゃに壊してしまうマフィアのやり方にそっくり。ええっ、そういうことなんですか...。
 ミツバチはゼロが分かるという実験にも驚かされます。
 ミツバチは、1から4までの数を区別できる。そして、何もないという状態は、1、2、3より小さい数、つまりゼロとして扱っている。
すごいですね、学者って、いろんな実験手法を次々に考え出し、比較検討して成果をひとつひとつ積みあげていくのですね。本当に尊敬します。
 子ブタたちは戦ごっこで遊んでいると、大きくなって、誰が強いかを決めるための本当のケンカをしたとき、メスは勝者になることが多い。ところが、オスの場合は真逆で、子ブタ時代によく遊ぶと、大人になってケンカに負ける。ええっ、よく遊ぶと、ケンカに弱くなるなんて、信じられません。
 新聞に連載されていたもののようですが、とても面白い本でした。
(2022年7月刊。税込1980円)

2022年11月 7日

ゴキブリ研究はじめました


(霧山昴)
著者 柳澤 静磨 、 出版 イースト・プレス

 著者は昆虫館の職員であり、ゴキブリを研究しています。そのため120種、数万匹のゴキブリを飼育しているのです。ところが、昔からゴキブリ愛好家だったのではありません。数年前まで、私と同じように、ゴキブリが大の苦手だったというのです。それが今では、ゴキブリストに変身。いったい何が起きたのか、なぜ...?
 ゴキブリ展を2ヶ月間やったら大盛況だったとのこと。すると、ゴキブリを家で見つけて殺すと、子どもが泣くようになった。なぜか...。かわいそう。そして、ぼくもゴキブリを飼ってみたかった...。いやはや、子どもの心は、かくも純真なのです。
 ゴキブリをペットとして飼育している人が日本にもいる。1匹数万円のゴキブリもいる。
 うぬぬ、なんと、なんと...。まあ、ヘビ(大蛇)をアパートの一室で飼っているうちに逃げられたというニュースが先日もありましたから、それに比べたら、可愛いし、まあ無害でしょうね。
 ゴキブリとカマキリは共通の祖先から分岐した、近い存在。そして、シロアリもゴキブリとは非常に近い生き物。シロアリはアリとはまったく別の生き物で、ゴキブリ目に属している。
 ゴキブリは匂いを出すものが多い。食べられないよう、匂いで防御している。鼻が曲がるほどの臭い、薬品の臭い、強烈な臭い。でも、干しシイタケの香りや、青リンゴのようなさわやかな匂いのするものもいる。
 ゴキブリのなかにも鳴き声を出すのもいる。危険を感じたとき、「食べないで」、「触らないで」とアピールしている。
 エサをやると、寄ってきて一生懸命に食べる姿はかわいい。触覚もきれいに手入れしているところも、見ていると癒される。脱皮した直後の白い姿は美しい。
 ダンゴムシのように、手のひらに乗せると、くるんと丸まってしまうゴキブリ(ヒメマルゴキブリ)もいる。
 ゴキブリの目は、大きく、愛敬のある複眼。
 ゴキブリは、世界に4600種、日本に64種いる。家の中に入ってくるゴキブリは、ごくわずかで、圧倒的多数は野外に生息している。
 「キモイキモイも、好きのうち。ゴキブリ展」が大盛況だったので、本になったのでした。
 私も「敵」を知りたくて読みました。面白かったです。
(2022年7月刊。税込1650円)

2022年10月31日

パンダ「浜家」のファミリーヒストリー


(霧山昴)
著者 NHK取材班 、 出版 東京書籍

 日本にパンダがいるのは、東京の上野動物園、神戸の王子動物園、そして和歌山・白浜のアドベンチャーワールドの3園だけ。
 40年以上も前に子どもを連れて上野動物園にパンダを見に行ったときは、昼間なのでお目あてのパンダは寝ていましたので、よく見ることができませんでした。神戸には行ったことがありませんが、白浜のアドベンチャーワールドにはすぐ目の前でパンダがゆったり歩き、竹を食べていましたので、それこそ大興奮しました。
 アドベンチャーワールドには2回行きましたが、パンダをじっくり見たいなら、やっぱりここです。白浜温泉に1泊して、ゆっくりパンダを眺めると、ストレス発散まちがいありません。
 「浜家」のパンダファミリーとは、中国と提携しているアドベンチャーワールドでオスのパンダ「永明(えいめい)」が次々に子をもうけ、なんと16頭ものパンダの父親となったことによります。その子どもたちは、白浜で生まれたので、みな名前に「浜」がついています。それで、永明につながるパンダを「浜家(はまけ)」のパンダと呼んでいるのです。
 パンダの寿命は野生では15年ですが、飼育していると30年は生きます。永明がまさに30歳。人間でいうと90歳。まだまだ元気です。おっとりした性格で、いつものんびりしているのがいいようです。人間も同じですね。
 この本を読んでパンダにも右利きと左利きに分かれていることを知りました。永明は右利き。竹を食べるようになると、よく使う手(利き手)が分かるそうです。
 パンダは竹だけを食べるのではありません。雑食性の動物です。やはりクマの仲間なのでしょうね。肉も魚も昆虫も食べます。アドベンチャーワールドでは、竹以外に補助食としてリンゴ、ニンジン、動物用のビスケットを与えています。
 竹でも、どんな竹でもパクパク食べるパンダもいるけれど、永明は竹の選り好みがとても激しく、気に入らないと少しかじってポイ、匂いをかいだだけでポイしてしまう。
 永明の好む竹を求めてスタッフは駈けずりまわり、ようやく園内に植えて、食材を確保したとのこと。
 パンダの眼はあまり良くないようだが、鼻と耳は、とても良い。飼育スタッフの声は、ちゃんと聞き分けている。
 ちなみに、白浜にパンダがたくさんいるのは、中国のパンダ基地にいるパンダが病気で全滅しないようにするための安全策という面もある。白浜で生まれたパンダが中国に戻っていくのは、そんな交換条件があるからでもあるが、とても合理的なシステムだと思います。もちつ、もたれつのいい関係なのです。
 それにしても、何度みてもパンダの写真集って、心がなごみますよね。パンダ、万才です。NHKの番組が本になっています。
(2022年7月刊。税込1430円)

 日曜日、よく晴れた気持ちのいい朝でした。
 フェンスにジョウビタキがやってきて、しきりに尾っぽを振って挨拶してくれました。ほんとうに可愛らしい小鳥です。
 フジバカマの花が、白い花も茶色っぽい花もまっさかりです。アサギマダラは来てくれないかなと見守っていると、茶色の派手なチョウが一匹やってきました。でも、アサギマダラではなさそうです。
 庭師さんに伸びすぎた本を刈り込んでもらい、庭がずいぶんすっきりしました。今は芙蓉のピンクの花が咲いています。
 午後から、チューリップの球根、そしてアスパラガスを植えました。春にそなえます。今年もあと2ヶ月、早いものですね。

2022年10月28日

深海学

深海学
(霧山昴)
著者 ヘレン・スケールズ 、 出版 築地書館

 この本を読んで、私は二つの謎に直面しました。その一は、地球上の海が、いったい、どうやってこれほど大量になったのか、ということです。だって、地球は生成当時は「火の玉」だったわけですよね。それが冷たくなったとしてても、水が簡単にできるはずはありません。さらに雨粒ができたとしても、今のような大海になるなんて、いったい、どれくらいの年月がかかることでしょうか...。200メートルより深い海の水の総量が10億立方キロメートル。アマゾン川は、80分ごとに1立方キロメートルの水を海に流しているが、この量で深海全体を満たそうとすると、15万年かかる。いやはや、「海の水はなぜ塩辛い」という難問の前に、なぜ海水はこんなに大量にあるのか、どこから来たのか、のほうがより難問ですよね。その答えは、今のところ、太陽系の外縁から氷の彗星が初期の地球に衝突して水が供給されたというもの。つまり、水の起源は宇宙(空)から降ってきたものなんです...。
 もう一つの疑問は、深海に光が届かいのはなぜか、です。海面から1000メートルより深い深海には太陽光は届かず、漆黒の闇となる。では、光の粒子は、いったいどこへ行ってしまったのか。光の粒子を吸収したものって、何なのか...。私には理解できません。また、もう一つ、光って粒子であると同時に波でもあったのですよね。だから、光は、何万光年も先まで届き、また、やって来るのでしょ。波は、いったい、どうやって深海中で消えてしまったというのでしょうか...。これら疑問の答えを、ぜひ教えてください。
 マリンスノー(海の雪)は、おもに植物プランクトンや動物プランクトンの死骸や糞で、それらがプランクトンやバクテリアの分泌する分子からできる粘着性物質でつなぎ合わされている。
 マッコウクジラは推進2000メートルまでフツーに潜れる。3000メートル近くまで潜ったという記録もある。なぜ、そんな深海までマッコウクジラは潜れるのか...。マッコウクジラは独自の手法で体に酸素を蓄えている。つまり、筋肉や血液中に酸素を蓄える。血液は糖蜜のようにドロドロ。それは、酸素と結合するタンパク質であるヘモグロビンが詰まった赤血球の占める体積が多いから。
 ミログロビンというタンパク質は、酸素と結合して、筋肉を黒に近い色に染め、必要なときに酸素を放出する。マッコウクジラは深海では、心拍数を下げて、蓄えた酸素の消費量を減らす。そして、潜水中に必要のない臓器への血管をふさいで血流を止め、その分で生かせる酸素を脳と筋肉に使う。
 マッコウクジラは、深海では音を突発的に発し、音響定位で獲物のイカを探して、追いかけ、食べる。まるで、水中版巨大コウモリのよう。
 深海には地上の光が届かないので、真っ暗。ところが、深海には発光する魚類がいる。
 深海に生息する魚類は、きわめて良い視力を進化させた。どの魚も生物発光を感知するため。目は超高感度になり、網膜には、数十もの光・色素をぎっしり並べて異なる波長の光を見分けることができる。そのため、ほかの動物が発する弱い光の点滅が見えるだけでなく、発する光の色の違いも見分けられる。
 深い海に生息する生き物の多くは寿命がとても長い。深海の動物たちは、何事も時間をかけ、ゆっくりと成長し、わずかばかりのエサが通りかかるのを待ち、次の交尾の機会がめぐってくるのを辛抱強く待つからか...。
 深海をめぐる深刻な問題点も指摘されています。その一は、マイクロプラスチック。その二が、地上の有毒廃棄物を深海に捨ててきたこと。その三が、放射性物質の捨て場になってきたこと、です。いずれも本当に深刻な問題だと思います。
 深海をめぐる根本的な問題が、いくつかの光をあてて浮きぼりにされていて、大変勉強になりました。人類が末永く生きていくためには、今を生きる私たちのやるべきことは多いことを痛感させられました。見えないから何もしなくてよいという問題ではないのです。
(2022年6月刊。税込3300円)

2022年10月17日

タヌキって、何?


(霧山昴)
著者 佐伯 緑 、 出版 東京大学出版会

 タヌキ学の黒帯的研究者が、令和のポンポコ事情を明らかにする。大いなる「狸想(りそう)」を掲げ、「真狸(しんり)」を追求。
 オビの文句は、かくも勇ましいのです。著者が空手の極真会で有段者であり、子どもたちにも空手を教える身だからです。空手をするタヌキなどのイラストも著者が描いたものです。まことに多才の人です。
 食肉目イヌ科であるタヌキの骨格は、基本的にイヌと同じ。
 タヌキは器用貧乏。走りも泳ぎも登りも狩りも、みな、ある程度こなせる。でも、同じ食肉目内の走りはオオカミ、泳ぎはカワウソやイタチ、木登りはアライグマ・ハクビジン・テン、狩りはキツネ・オオカミ、穴掘りはアナグマにはかなわない。
 タヌキの得意技は、小さな隙間を通るのがうまいこと。
 タヌキは、「溜め糞(ためふん)」と呼ばれる共同トイレを使う。ゲージ内では一つの溜め糞を家族で使い、知らないタヌキの糞があると、その上にする。つまり、自分(家族)と他狸とを臭いで識別できる。
 タヌキは、好き嫌いは言わない、食べられるときに食べるチャンスは逃がさない、これをモットーとして、しっかり生きのびてきた。
 野生のタヌキは、一日一日が死と生の選択で過ぎていく。タヌキの寿命は、野生で6~8歳、飼育下だと20年近い。野生で生きるのは、それだけ厳しい。
 イヌ科は北アメリカで、誕生した。そして、ベーリング海峡を伝って、ユーラシア、さらにアフリカへ進出していった。
 日本のタヌキは、寒さ対策がゆるんで、食べものも肉食系雑食より、昆虫・果実食系雑食になった。
 タヌキは繁殖力が強い。1腹の子が8~10頭。最高記録は16頭。1歳のメスの3分の2が出産する。出産後は、哺乳類としては珍しく父親による高度な育児がある。
 そして、タヌキはオス、メスともに遠くに広がる(分散能力)がある。20キロ、40キロは珍しくなく、ドイツでは91キロ、スウェーデンでは650キロも移動したことが確認されている。
 戦前の日本ではタヌキの養殖が盛んだった。それは、兵士の防寒装備としてタヌキの毛皮が使われていたということ。アメリカに輸出もされていた。
 キツネとタヌキは、どちらも中型のイヌ科。
 タヌキは「ロードキル」で死ぬことが多い。道路に出たところを車にはねられて死ぬ。これは、タヌキが鈍いのではなくて、防御行動として「立ち止まり型」をとる結果。
 著者はアメリカやイギリスの大学で野生生物を研究したあと、日本に戻って、千葉でタヌキを追いかける研究者になりました。これは千葉に親戚が住んでいたことが大きいようです。それにしてもタヌキを飼ったり(病気やケガをしたタヌキを養生させるため)、まことに好きじゃなければ、やってられないと思いました...。
(2022年7月刊。税込3630円)

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