弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2022年10月17日

タヌキって、何?


(霧山昴)
著者 佐伯 緑 、 出版 東京大学出版会

 タヌキ学の黒帯的研究者が、令和のポンポコ事情を明らかにする。大いなる「狸想(りそう)」を掲げ、「真狸(しんり)」を追求。
 オビの文句は、かくも勇ましいのです。著者が空手の極真会で有段者であり、子どもたちにも空手を教える身だからです。空手をするタヌキなどのイラストも著者が描いたものです。まことに多才の人です。
 食肉目イヌ科であるタヌキの骨格は、基本的にイヌと同じ。
 タヌキは器用貧乏。走りも泳ぎも登りも狩りも、みな、ある程度こなせる。でも、同じ食肉目内の走りはオオカミ、泳ぎはカワウソやイタチ、木登りはアライグマ・ハクビジン・テン、狩りはキツネ・オオカミ、穴掘りはアナグマにはかなわない。
 タヌキの得意技は、小さな隙間を通るのがうまいこと。
 タヌキは、「溜め糞(ためふん)」と呼ばれる共同トイレを使う。ゲージ内では一つの溜め糞を家族で使い、知らないタヌキの糞があると、その上にする。つまり、自分(家族)と他狸とを臭いで識別できる。
 タヌキは、好き嫌いは言わない、食べられるときに食べるチャンスは逃がさない、これをモットーとして、しっかり生きのびてきた。
 野生のタヌキは、一日一日が死と生の選択で過ぎていく。タヌキの寿命は、野生で6~8歳、飼育下だと20年近い。野生で生きるのは、それだけ厳しい。
 イヌ科は北アメリカで、誕生した。そして、ベーリング海峡を伝って、ユーラシア、さらにアフリカへ進出していった。
 日本のタヌキは、寒さ対策がゆるんで、食べものも肉食系雑食より、昆虫・果実食系雑食になった。
 タヌキは繁殖力が強い。1腹の子が8~10頭。最高記録は16頭。1歳のメスの3分の2が出産する。出産後は、哺乳類としては珍しく父親による高度な育児がある。
 そして、タヌキはオス、メスともに遠くに広がる(分散能力)がある。20キロ、40キロは珍しくなく、ドイツでは91キロ、スウェーデンでは650キロも移動したことが確認されている。
 戦前の日本ではタヌキの養殖が盛んだった。それは、兵士の防寒装備としてタヌキの毛皮が使われていたということ。アメリカに輸出もされていた。
 キツネとタヌキは、どちらも中型のイヌ科。
 タヌキは「ロードキル」で死ぬことが多い。道路に出たところを車にはねられて死ぬ。これは、タヌキが鈍いのではなくて、防御行動として「立ち止まり型」をとる結果。
 著者はアメリカやイギリスの大学で野生生物を研究したあと、日本に戻って、千葉でタヌキを追いかける研究者になりました。これは千葉に親戚が住んでいたことが大きいようです。それにしてもタヌキを飼ったり(病気やケガをしたタヌキを養生させるため)、まことに好きじゃなければ、やってられないと思いました...。
(2022年7月刊。税込3630円)

2022年10月16日

昆虫食スタディーズ


(霧山昴)
著者 水野 壮 、 出版 同人選書

 地球環境を守るため、昆虫を食べよう。そんな呼びかけをしている本です。
 昆虫はこれまでの家畜と同じく栄養価が高く、かつ、地球環境免荷を軽減できるエース級の動物タンパク源だ。
 2050年までに世界の人口は90億人に達する。そして、2010年から2050年にかけて、肉と牛乳の消費量は58%も増加する。すると、肥料の需要が増加し、牛・豚・鶏肉の価格は30%以上あがる。そのうえ、地球温暖化を促進してしまう。
 家畜に代わる代替タンパク質として期待されているのが昆虫。
 実は、古くから昆虫は人類の食料として利用されてきた。現在でも、世界で20億人以上が昆虫を食べ、2000種もの食用昆虫がある。
 昆虫のタンパク質含量は乾燥重量あたり40~75%。これは牛肉・豚肉に匹敵いやそれ以上の豊富なタンパク源。しかもタンパク質を構成する必須アミノ酸の組成も悪くない。
 昆虫は、とくにビタミンB群を豊富にふくむ種が多い。
 昆虫の炭水化物は、表皮を構成するキチンが大半。キチンは機能性食物繊維としての活用が期待できる。キチンやそこから生成されるキトサンはコレステロールの体内への吸収を低下させる作用がある。昆虫由来のキチンは、カルシウム含量が少ないので、精製が容易。また、加水分解されやすいので、さまざまな用途への活用が期待できる。
 昆虫の温室効果ガス排出量は非常に低い。それはメタンガスをほとんど生成しないことのほか、変温動物のため代謝量が低いため。
 たとえば、イエバエとアメリカミズアブを養殖したら、1ヘクタールの土地で年間150トンのタンパク質が生産できる。しかも、高密度で飼育でき、発育スピードも非常に速い。さらに、昆虫の水分摂取量は非常に少ない。また、少ない餌で効率よく育つ。
 廃棄物を昆虫が食べて育つことで、廃棄物はタンパク質に変わる。
 イエバエは卵から成虫になるまで35度で1週間。アメリカミズアブは、卵から蛹まで1ヶ月。コオロギもイナゴも日本では昔から食べてきた。ハチノコも年間数キログラムが消費されている。
 昆虫食ビジネスが注目されている。そこまでは理解できます。でも、その昆虫のなかに、ゴキブリまで対象となっていると聞くと、うえーとなりそうです。だけど、そこを乗りこえないとビジネスにはならないのでしょうね、きっと...。
(2022年2月刊。税込1870円)

2022年10月15日

きのこの自然誌


(霧山昴)
著者 小川 真 、 出版 山と渓谷社

 私が好きなきのこはシイタケとマイタケです。焼き鳥屋で肉厚のシイタケを焼いてもらって食べると最高ですよね。マイタケは、やっぱり天プラですね。
 マツタケなんて、何年も食べたことがありません。わざわざ超高価なマツタケを食べようとは思いません。それ以外のきのこは、毒きのこのイメージが強くて、とても手が出ません。毒をもつフグなら、ちゃんとした店で調理したものに限ります。
 フランス料理の珍味の一つのトリュフ。ブタが、このきのこの匂いにもっとも敏感。だけどブタはともかく頑固で、人間の言うことを聞かずに、見つけたトリュフをさっさと自分で食べてしまう。なので、ブタをつかってトリュフを探すのは困難すぎる。
 イタリアには、トリュフ狩り用のイヌの訓練校があるとのこと。トリュフの匂いに敏感なハエがいて、それでトリュフを探す。というか、トリュフの匂いは、このハエを招き寄せるためのもののようだ。トリュフは有史以前、ギリシャ、ローマ時代に、既に珍味中の珍味になっていた。
 トリュフは日本ではほとんど採れない。日本は土壌が酸性で、かつ雨量が多い。しかし、トリュフは湿った場所を嫌い、アルカリ性の土だけを好む。石ころ混じりの腐植の多いアルカリ性の土地を好む。年間雨量が600から900ミリの地帯にのみ発現する。このように、トリュフの栽培は、マツタケと同じように難しい。
 きのこの縄張りは、広がったり、食われたり、入れ替わったりと目まぐるしい。10年もすると、すっかり種類が変わってしまうほど。それぞれの種が、それぞれの暮らし方にしたがって、縄張りをつくり、互いに競争しながら精一杯生きている。
 マツの老齢林でマツタケが見る間に出なくなるのは、若いマツの根が少なくなり、落葉が厚くなって、地表に敵がふえ、シロが次々に攻められ、マツタケがきのこ戦争に敗れるためだと考えられている。関西では、昔からマツタケの出る場所をシロと呼びならわしている。
 マツタケの生えるマツ林にうかつに近づくと、「泥棒っ」と怒鳴られてしまう。
 マツタケのない地方では、山への出入りは勝手放題だし、人の心ものどかだ...。なーるほど、ですね。
 人を殺すほどの猛毒をもっているのは、タマゴテングダケとドクツルタケ。
 『今昔物語』に出てくるきのこは、「オオワライタケ中毒の症状」とそっくりだという。
 さすが、キノコを長年研究したことがこうやってまとめれているのです。すごいきのこ図鑑(文庫本)です。
(2022年2月刊。税込1188円)

2022年10月 3日

生命の大進化40億年史


(霧山昴)
著者 土屋 健 、 出版 講談社ブルーバックス新書

 地球の歴史は46億年。39億5000万年前に生命が誕生した。そして30億年以上かけて生命はゆっくりと進化していった。
 5億7500万年前に、多様な生物群が出現。
 5億3900万年前のカンブリア紀に、動物たちが本格的な生存競争を始める。その後、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石炭紀、ペルム紀という6つの「紀」があり、2億8700万年間を古生代と呼ぶ。古生代が始まったときには、海域だけだったのが、次第に陸域へ進出した。
 カンブリア紀には爆発的な多様化が誕生した。まさしく奇妙奇天烈な格好の生物が無数にあらわれました。有名なアノマロカリスも、今ではたくさんありすぎて、さらに細かく分類されているようです。
 そして、動物が眼をもったことが進化を加速させたというのが通説になっています。なるほど、見えるのと見えないのとでは、進化の様相が違ってくるでしょうね。
 そして、ついにサカナが登場。すべての脊椎動物はサカナから始まった。初期のサカナたちには歯もアゴもなかった。海底にたまった有機物を吸い込むだけだった。
 カンブリア紀から現在に至るまでに5つの大量絶滅事件があった。ビッグ・ファイブともいう。シルル紀の海で、サカナたちの進化は進んだが、まだ弱者だった。カンブリア紀以来、1億年以上にわたって海のみを生活と進化の舞台としていたサカナたちの中に、陸に上陸することができるものが現れた。
 サカナから四足動物が誕生するにあたって、からだのつくりは、タテ型からヨコ型へと変わり、眼の位置も変わり、胸びれと尻ビれ以外のひれは消失し、胸ビレと尻ビれは骨と筋肉と関節をもつ足へと変化し、あわせて、肩や腰、首などをもつようになった。
 石炭紀の大森林の主力はシダ植物。このころのシダ植物は、日陰ではなく、日向の主役だった。
 150点をこえるカラー画像もあって、生物の進化を視覚的にたどることのできる楽しい新書でした。でも、目の前にある化石をこうやって、いつの時代のものと位置づけられるって、すごいことですよね。
(2022年6月刊。税込1760円)

2022年10月 1日

したたかな植物たち

(霧山昴)
著者 多田 多恵子 、 出版 ちくま文庫

 もの静かで、じっと動かない植物。しかし、本当は「戦う」存在だというのです。ええっ、そ、そうなの・・・。そんな驚きを見事に納得させてくれる、写真たっぷりの文庫本です。
 植物たちは、したたかに、そしてけなげに生きている。
ヨーロッパ原産のセイヨウタンポポと日本原産のカントウタンポポの違い。セイヨウタンポポは、総苞(そうほう)片がそり返る。カントウタンポポは、総苞片がそり返らず、先端に角のような小突起がある。
セイヨウタンポポは、明治時代の初めに日本にやってきた。放牧している乳牛に食べさせるために北海道の牧場に導入したのが始まり。葉や茎を切ると、白い乳液が出ることから、西洋では牛に食べさせると乳の出が良くなると信じられていたという。
セイヨウタンポポが爆発的に増えたのは、昭和30~40年代の高度成長時代。
セイヨウタンポポは春だけでなく、夏から冬も開花結実し、多数のタネは、軽く、遠くまで飛ぶ。そして、無融合生殖で増えていく。つまり無性生殖。単独で子をつくってしまう。ドクダミ、ヒガンバナ、シャガそしてニホンスイセンも、みな無融合生殖。 花が咲いても実を結ばず球根や地下茎でクローンを増やしていく。
 在来タンポポは、虫が別の株の花粉を運んできてくれないと結実できない。
 パンジーやビオラは、スミレの仲間。ヨーロッパの野生種からつくられた。なるほど、パンジーとビオラって、ほとんど形の大小のほか違いがありませんよね。
スミレは、アリの好物である脂肪酸を「おまけ」としてアリを呼び集める。アリはせっせとタネを巣へと運ぶ。そうやって、スミレは広がっていく。
カタバミの実は、何かが見に触れると、その振動を感じて、ピュピュッと中からタネが飛び出してくる。そして、袋の中に充満していた透明な液体もタネとともに飛び出す。この液体はいわば「瞬間接着剤」で振動を与えた人の靴や足にタネを貼りつける。こうやって、人の稼動力を利用して生活圏を広げていく。
 植物は常に窒素(ちっそ)分に飢えている。窒素分は不足しやすい資源だ。空気中には窒素ガスが大量にあるが、分子の結合が固いので植物は利用できない。唯一の例外が根粒菌。マメ科植物は根粒菌と「共生」することで「飢え」から解放された。
ネジバナの1個の実には、数万個のものタネ(種子)が入っている。タネは、長さ0.4ミリ、重さはわずか0.0009ミリグラム。
ミズバショウ(白い花)とザゼンソウ(茶色の花)は、どちらもサトイモ科の多年草。ドクダミとは遠縁にあたる。ミズバショウの花はよい香りで、ザゼンソウの花は悪臭。
いま、庭にフジバカマを5本植えています。アサギマダラという「テフテフ」(ちょうちょ)が来るのを待ち構えているのです。いえ、昆虫採集の趣味はありません。単純にフジバカマの花を植えると、アサギマダラがやって来ると聞いたので、フジバカマを4株だけ植えてみたのです。さてさて、うまくいくでしょうか・・・。もちろん、うまくいってほしいのです。
(2019年3月刊。税込1012円)

2022年9月20日

面白くて眠れなくなる進化論


(霧山昴)
著者 長谷川 英祐 、 出版 PHP文庫

 お昼に食事しながらの雑談のとき、突然、私はこの本で得た知識をその場にいた人たちに披攊しました。言わずば腹ふくるる心地だったからです。
 コオロギのメスは、オスの価値をその鳴き声で判断している。オスは「リリリリ」と鳴く。そのとき、1秒間あたり、たくさん「リ」のパルスがある、つまり、テンポの速いオスの声を好む。
 そこで、まず、それを確認するため、メスを真ん中に置いて、両側に細長い通路をつくって、その奥にテンポの違うオスを置いて鳴かせ、メスがどちらのオスを選ぶかを実験する。その結果は、案の定、テンポの速い鳴き方をするオスをメスは選ぶ。
 そこで、次に、メスからのオスの位置を変えてみる。テンポの速いオスを遅いオスよりメスから遠くに置く。すると、その遠さが一定以上になると、メスは近くにいるテンポの遅い、つまり質の悪いオスを選ぶようになる。
 これは「時間割引」という現象。常に死の危険があるため、次の瞬間にも生きている確率は「1」ではない。遠くの質のいいオスを求めて行く途中で天敵に襲われてしまったら、元も子もない。いやはや、こんな実験を思いついて、実際にやってみるんですね...。学者ってホント偉いです。
 いったい、こんな実験が人間の生存に何か関係があるのか、これって人の役に立つ学問なのか...。そんな疑問は無用だと私は思います。疑問がわいたら、それを究明することこそ、人間の、人間たる所以(ゆえん)なのではないでしょうか。
 アリは、全体の3割くらいしか働いていなくて、あとの7割はぼおっとしているだけ...。そして、その働いている3割を強制的に取り除くと、残った「7割」のうちから、またもやその3割だけが働きはじめ、その比率は変わらない。
 なんで、そうなのか...。それは、アリも疲労するから...。たとえば、シロアリは卵を放置しておくとカビが生えて死滅してしまう。そうならないよう、抗生物質をふくむ唾液を卵に塗りつけてカビを防ぐ。これも疲れる作業ではあるので、全員が働いて疲れてしまったら、そのコロニーは全滅してしまうことになる。なので、そうならないように予備軍を確保しておく必要がある。働いていないアリは、まさしくこの予備軍だ。いざとなったら、みんなのために働き続ける。そのときまでエネルギーは無駄使いせず、残してためておく。なーるほど、とてもとても合理的な発想ですよね。
 生物の世界も奥がとても深いことが実感できる、200頁ほどの薄い文庫本です。眠れなくはなりませんでしたが、たしかに面白い本です。
(2022年4月刊。税込836円)

2022年9月12日

立てないキリンの赤ちゃんをすくえ


(霧山昴)
著者 佐藤 真澄 、 出版 静山社

 広島市にある安佐(あさ)動物公園に赤ちゃんが生まれました。ところが、この赤ちゃん、生まれてから一晩たつのに立った様子がない。よく見ると、うしろ足の格好が変だ...。足先が本来なら曲がらない方向に曲がっているから、立てないのだ。診断名は、重度の屈腱(くっけん)弛緩(しかん)。屈腱がダランと伸びきっている。
 キリンが立てないと、母・キリンのおっぱいを飲めない。母キリンのおっぱいは地面から高さ2メートル。立ったままで授乳する。赤ちゃんキリンは立たなければ、お母さんキリンのおっぱいに吸いつくことができない。
 キリンでは、先天的にしろ、後天的にしろ、立てない状態では、最終的には衰弱して死を迎える。人工ミルクを与えても、胃腸の働きが悪くなって、消化不良となって、衰弱してしまう。
 母キリンは赤ちゃんキリンを足で蹴ったりする。これは、いじめではなく、早く立ち上がりなさいという合図。でも赤ちゃんキリンは自力で立ち上がることができない。そこで、飼育員たちは後ろ足にギブスをはめることにした。
 ところが、赤ちゃんキリンがどんどん大きくなっていくので、ギブスの装着は頻繁に変える必要がある。そのため、大勢の飼育員がキリンを取り囲む。それに平気なキリンになってもらわないといけない。
 大きくなると、麻酔するしかない。でも、キリンは4つの胃をもっているので、横になったら胃が圧迫されたりして、誤嚥性肺炎になったりする。
 でもでも、麻酔注射も無理になってきた。しかたなく麻酔銃を使う。赤ちゃんキリンは、銃を見ると警戒するようになった。そして、銃を撃つ人はキリンに嫌われる。すると、その人だけ嫌われ者になってもらい、他の飼育員は「いい人」を演じる必要がある。なーるほど、微妙なんですね、キリン心も...。
 麻酔したときも、キリンの首はある程度は起こしておかないといけない。首の保定(ほてい)も大変。
 赤ちゃんキリンが大きくなって、ついにギブスでも限界がきた。さあ、どうする...。
 広島国際大学には、義肢装具学専攻を含むリハビリ学科があることをHPで発見し、そこにSOSを送り、受け入れてもらえた。大学で赤ちゃんキリンの義肢を何度もつくってもらうのです。なにしろキリンって、体重が1年で200キロも増える。赤ちゃんキリンは、生まれたとき体重57キロだったのが、3ヶ月で120キロ、倍以上になった。
義肢装具士は、厚労省が認定する国家資格。知りませんでした。
 装具バージョン4のあと、ついに、キリンは、装具をはずして歩けるようになった。す、すごーい。
キリンの食事は、1日に枝つき木の葉を10キロ(可食部は3~5キロ)。これに、乾燥させたマメ科の牧草5キロ、固形飼料(ペレット)5キロ。このほか、リンゴや小松菜などの青菜を0.5キロをおやつとして与える。
 2歳(2022年4月現在)のキリン「はぐみ」は、身長350センチ、体重350キロ。いやはや、なんと大きいことでしょうか...。育ち盛り、わんぱく盛り。生まれたときから人間に慣らされているため、飼育員の帽子をかじったり、メガネをとろうとしたり、ちょっかいを出してくる。これは大変ですね...。でも、なんだかホンワカ心が温まりますよね...。
 世界中のキリンは、キタキリン、ミナミキリン、アミメキリン、マサイキリンの4種。日本にはアミメキリンとマサイキリンがいる。広島の安佐動物公園のキリンは、全部、アミメキリン。
 アミメキリンは、東アフリカのサバンナに生息する。1頭のオスと2~3頭のメス、その子どもを加えた10頭ほどの群れで生活している。
 アミメキリンは、生息数が1万頭以下。過去30年間に15万頭以上が10万頭以下にまで減ってしまった。日本の動物園には、58園・館で190頭のアミメキリンが飼育されている。動物園の飼育員って、安月給にもかかわらず、好きで好きで仕方がないのでしょうね...。とても面白くて、一気読みしました。
(2022年7月刊。税込1540円)
 暗くなるのが早くなりました。薄暗くなると、台所の窓にヤモリがへばり着きます。2匹出てくることもあり、少し離れたところでじっと静止しています。夜12時前には姿を消します。
 自然が近いせいか、家の中はあちこちに大小のクモが徘徊しています。庭にはモグラがいて、たまに地上でモグラの死骸をみます。そして困るのがヘビです。突然出くわさないように心がけています。
 今はピンクのフヨウが咲いています。リコリス(ヒガンバナの一種)が庭のあちこちに咲きはじめました。燃えるような赤、やさしいクリーム色、そして純白の花が秋到来を告げます。
 朝はまだ朝顔がたくさん咲いて迎えてくれています。いかにも元気なので、おはようと声をかけます。

2022年8月28日

「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた


(霧山昴)
著者 グレゴリー・J・グバー 、 出版 ダイヤモンド社

 猫は高いところから落ちると、最初にどんな姿勢であっても、必ず、足から着地するという驚きの能力をもっている。
 この本は、超一流の物理学者たちが、この「ネコひねり問題」を理論的に解明し、説明しようとした苦闘の歴史を解説しています。
 なので、その理論のところは、とても難しくて、正直言って私にはよく分かりませんでした。
 それでも、長い尾がなくても、目隠しされていても、そして宇宙(無重力)空間でも無事に着地できるという猫の能力には、改めて驚くばかりです。
 しかも、猫は高層ビルから落下したときにも、意外や意外、ほとんどケガせずに着地するというのです。それも9階より高いほうが猫はケガしないという、私たちの常識に反する事実があるのです。
 信じられません。その理由の一つは、猫の体重が人間よりはるかに軽いからです。
 猫は高いところから落下するとき、完全に無重量状態にある。なので、「加速」を感じることはない。しかし、終端速度に達すると、通常の重さを感じて、衝突に備える。
 32階の高さからコンクリートの地面に落ちた猫は、軽度の気胸と歯が1本欠けただけですんだ。いやあ、まったく信じられません...。
 イスラムの世界では、猫が西洋よりも、はるかに敬意をもって扱われている。それは預言者モハメッド(ムハンマド)が猫を愛したことにもとづく。
 いずれにせよ、猫の身体が想像以上に柔軟であることに関連していることは確実です。
 世の中には、本当に不思議なことが山ほど、次から次に出てくるものなんですね...。だからこそ、この世は果てしなく面白いのですが...。
(2022年5月刊。税込1980円)

2022年8月27日

進化の謎をとく発生学


(霧山昴)
著者 田村 宏冶 、  出版 岩波ジュニア新書

 エンハンサーという聞いたことのないコトバが登場してきます。
 進化しているのは形づくりの仕組みだ。
 動物の特徴は、エサをとること。それは、細胞がエサを必要としているから。
 タンパク質は、ヒト(人間)の体の組成成分としては、水(17%)に次いで多く、全体重の16%を占めている。ヒトの体はタンパク質でできているどころか、タンパク質によって作られる。
 エンハンサーは、ある遺伝子が脳で発現したり、心臓で発現したり、あるいは筋肉で発現するのに使われる配列。
 ゲノムは数万個以上になるだろうエンハンサー配列がちりばめられていて、その組み合わせで2万5千種類の遺伝子がどの細胞で、いつ、どれくらい機能するかが決められている。
 ヒトでは、200種類に分化した細胞が、さまざまな機能をもつことによって、ひとつの生命体として統合された運動をしている。遺伝子は2万5千種類しかないので、200種類、37兆個から成るヒト1個体分をつくり出すためには、遺伝子をあちこちで使いまわす必要がある。遺伝子の時空間特異的な発現を可能にするのがエンハンサーだ。
 エンハンサーの働きによって、遺伝子は、いつ、どこで発現して、どれくらいタンパク質をつくのか、制御される。 すなわち、受精卵からゲノム情報をもとに発生する。
 鳥の先祖は恐竜。そして、現生の動物で恐竜に一番近いのは、ワニ。恐竜のゲノムは不明。 化石のなかにDNAや塩基はほとんど残っていない。「ほとんど」というのは、少しは残っているということなのでしょうか...。
 魚のカレイはヒラメに近い仲間。ヒラメは成魚になる過程で右眼が左に移動し、左半身にだけ色がついて、左を上に向けて泳ぐ。カレイは逆に、すべて右に動き、右を上にして生活する。 例外もあるが、ひだりヒラメにみぎカレイと覚える。
 世の中、ホント、知らないことだらけですね...。この本は、とてもジュニア向けだとは思えません。
(2022年3月刊。税込902円)

2022年8月22日

沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか?


(霧山昴)
著者 佐藤 圭一 ・ 冨田 武照 ・ 松本 瑠偉 、 出版 産業編集センター

 前に、このコーナーで紹介しました『寝てもサメても。深層サメ学』の続編です。むずかしい記述もありますが、そんなところは読み飛ばして、とても面白い、ハラハラドキドキの研究が紹介されているのに目が強く惹かれます。
 なにしろ、ガラパゴス諸島に出かけて、その近海で1週間も潜水調査するのです。お目あては、かの巨大なジンベイザメ。巨大ザメに取りつき、注射針を刺して採血し、また水中エコー機で腹部をスキャンするのです。いやあ、すさまじい、涙ぐましい努力ですよね。興奮のあまり録画ボタンを押し忘れるなどの失敗もしながら、見事に血液サンプルを確保し、腹部エコー画像もとったのでした。しかも、それをしたのは日本人研究者の男女です。もちろん、現地の人たちがサポートします。なにしろ水深30メートルほどもあり、水中でエア切れになったりするのですから、サポートなしでやれるものではありません。
 本職が看護師の村雲さんは、採血するにあたって、胸ビレには針が刺さらないので、背ビレの付け根に針を刺して成功した。このとき、ジンベイザメのヒレにつかまっているので、そのまま海の向こうに連れていかれないよう、サポーターが見守っている。いやはや、怖いこと。
 美ら海水族館で独自に開発した健康管理の技術がガラパゴス諸島の周囲に生息する野生ジンベイザメの生態研究に貢献したというのです。すごいことです。
 水族館は、博物館などと比較して、運営コストが群を抜いて高い。というのも、水中にすむ動植物を多数飼育しているから、その飼育水を維持するには、ライフサポートシステムを24時間、絶えることなく稼働させる必要がある。沖縄美ら海水族館は、年間1000万キロワットの電力を消費している。これは一般家庭2800世帯の年間消費量に相当する。そのほか、エサ代そして人件費が必要となる。
 水族館のスタッフは研究する必要がないのか、研究成果の発表なんて不要なのか、という問いかけがなされています。いやあ、必要ですよね。見物客に向けたショーをやっているだけでいいなんてことはありません。
 でも、その研究って、いったい、何の役に立つのか...、と声を低めてしまいます。
 でもでも、目先の役に立てるものばかりが人類に真の意味で役に立つのかどうかは別ですよね。生物の多様性、多様な生物の形態を保持・維持することは人類の生存の保持にもつながるものです。
 沖縄美ら海水族館には、私も2回だけ行きました。年間入場者200万人を記録したとのことですが、コロナ禍の下では、入場者も激減したのでしょうね。だけど、沖縄に行ったら、ぜひ行ってみたいところです。ただ、那覇から遠くて、バスかタクシー、レンタカーしかないのが難点です。早く地下鉄を延伸してくれませんかね...。
 この水族館では、サメの人工子宮をつくっています。人為的にサメの子宮内環境を再現した装置で胎内の胚発生を観察し、サメを産み出すのです。そのため、人工子宮の中を満たした水「人工羊水」を開発しました。サメの体液生成に似せた液体を人工的につくって、本物の羊水の代わりを果たさせるのです。そして、サメ人工出産に成功したのでした。いやあ、すごいことです。
 そして、著者(の一人)は、こう書いています。
 私には、自分の研究の重要性を他人に認めてもらいたい一方で、自分の研究の重要性が他人に分かってたまるかという気持ちがある。お前は、いつから「人に役に立つ研究」なんぞするような研究者に成り下がったのか...。研究者とは、かくも我がままで、矛盾に満ちた生き物なのだ。
 いやあ、面白い本です。挑発的なタイトルもいいですね。こんな問いかけをする研究者がいるからこそ、世の中は発展するわけで、それを阻害する政府の日本学術会議の任命拒否は、ますます許せないという気持ちが強まりました。一読を強くおすすめします。
(2022年6月刊。税込1980円)

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