弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2021年12月20日
生物はなぜ死ぬのか
(霧山昴)
著者 小林 武彦 、 出版 講談社現代新書
タイトルの問いかけに対する答えは簡単です。だって、一つの個体がいつまでも長生きしていたら、次世代が活躍できないからです。
それは、政治の世界でも同じこと。80歳を過ぎてもなお国会議員の椅子にしがみついていたらいけないのです。潔く後進に席を譲るべきでしょう。その意味で、今回の選挙で自民党の長老たちが福岡や熊本で落選したのは良いことでした。でも、福岡にはまだアッソーという、とんでもない長老が居すわっていますね...、残念です。
これまで、地球では5回もの大量絶滅を迎えている。それは、大規模な火山の噴火とか隕石の衝突によるとみられている。しかし、現在、再び大絶滅が進行中。それは火山の噴火などではなくて人類の活動が原因。本当に子や孫、次の世代の人たちに申し訳ないことです。グレタさんの呼びかけに私たちはもっと真剣に耳を傾けるべきだと思います。
ヒトのご先祖は、今も生息するツパイのようなネズミに似た、小さな夜行性の哺乳類。恐竜が絶滅したおかげで、食料と生きる空間を拡大し、現在につながっている。
地球上にいる生物種は、名前のついているものだけで180万種。その半分以上の97万種は昆虫。昆虫は、もっとも進化して複雑化した生物。カブトムシなどの昆虫は大きくなれるのは幼虫のときだけ。つまり、幼虫の仕事は、食って大きくなること。
ハツカネズミは、野生だと寿命は1年以内。中型(体長20センチ)のハリネズミは10年、大型(体長1メートル)は20年。体長が大きくなると、寿命ものびる。
ところが、アフリカの乾燥した地域にアリの巣のような穴を掘りめぐらして、その中で一生を過ごすハダカデバネズミは、寿命が30年。これは、天敵が少ないこと、低酸素の生活環境で暮らしていること、低体温、食べる量も少ないことなどによる。このハダカデバネズミは、真社会性の生きもの。1匹の女王を中心とした分業制の社会システム。面白いのは「フトン係」といって、子どものネズミを温め、体温の低下を防ぐだけのネズミがいる。分業により仕事が効率化し、1匹あたりの労働量は減少する。このストレスの軽減が、寿命の延長に役立った。
ハダカデバネズミは何が原因で死ぬのか分かっていない。死ぬ直前までピンピンしている。老年で元気のない個体はいない。ええっ、本当でしょうか...?
ニホンザルの寿命は20年、ゴリラやチンパンジー、オランウータンは40年。そして、ゾウの寿命は80年。成獣になるまで20年もかかる。
日本人のうち100歳以上の人が8万人超。ところが、115歳をこえた日本人は、11人。全世界でも50人はいない。ヒトの最大寿命は115歳なのか...。
生物の生と死を考えさせてくれる新書です。
(2021年4月刊。税込990円)
2021年12月18日
ダニが刺したら穴2つは本当か?
(霧山昴)
著者 島野 智之 、 出版 風濤社
ダニについて書かれた本です。本のオビには世にも美しいダニの電子顕微鏡写真を多数掲載とあり、実際、その見事にグロテスクかつ美しいダニの姿がとらえられています。
私は自然豊かな田園地帯に住んでいますので、夜になると窓にヤモリが張りついていますし、すぐ近くをタヌキが夜だけでなく、昼間、堂々(悠々)と闊歩している姿を見ることができます。そして楽しみの庭仕事をすると、腰が痛くなるばかりでなく、腕やら脚を何かにかまれて発赤し、痒(かゆ)みを覚えてしまいます。大自然の近くで生活すると、そんな苦労がつきまとうことになります。それはさておき、ダニの話に戻ります。
ダニは世界に5万種、日本には2000種いる。血を吸うマダニのようなダニは日本には20種類ほどしかいない。多くのダニは人間には被害を与えることなく、人間とは関係のない自然の中で暮らしている。人間の血を吸うダニ種は、世界中にいるダニの1~2%でしかない。
たとえば、アナタカラダニは花粉食であって、人間の血は吸わない。そもそも、その口器は人間をかめるような構造になっていない。また、このカベアナタカラダニにはオスがおらず、メスがメスを産む単為生殖。
ダニは、熱帯はもちろん、南極大陸から北極圏まで、地球上のあらゆる場所に生殖している。高山から海岸そして7000メートルの深海底にまで生活している。
ハモリダニは、60度の熱にも耐えられる。
身体の大きさを抜きにして、ササラダニは、かの凶暴で名高いティラノサウルスの6倍から10倍ほどアゴの力がくわえているとのこと。
島には、たくさんのダニがまとわりついている。ダニは風で吹きとばされる。
マダニは、光、酪酸、体温という3つの感覚がまだ残っている、
毎日毎日、ダニたちを研究対象にしている学者って、本当に大変ですよね。本のタイトルの疑問の答えは、本当ではないということのようです。
(2021年6月刊。税込1980円)
2021年12月12日
家は生態系
(霧山昴)
著者 ロブ・ダン 、 出版 白揚社
人間のすむ家から、20万種の生物が見つかっている。いやはや、すごい数です。その4分の3は、ホコリ、人体、水、食品、および腸内で見つかった細菌。4分の1は真菌。残りは節足動物、植物、その他。
人間が家の中を歩きまわると、どんな人でも1日に5000万個の皮膚断片(鱗屑、りんせつ)が身体からはがれ落ちている。そして、空中を漂う鱗屑一つひとつに数千個の細菌がすんでいて、それを食べている。
どんな人の手も、実は手だけでなく、鼻、へそ、肺、腸および体表面のすべてが、微生物叢(そう)で覆われている。
手を洗って除去されるのは、手にくっついたばかりでまだ定着していない微生物だけ。
チャバネゴキブリは、屋内の人間が暮らしている場所に限って、頑強で多産。そして、人間が好むような食物を好む。人間と同じく、一匹で孤立して暮らすのは苦手だ。
病原体の媒介という点では、イエバエはチャバネゴキブリをはるかに上回っている。下痢を起こす病原体を運んだりして、年間50万人をこえる死亡に関与している。
この本は、ゴキブリ駆除剤がきかなくなった理由を突きとめるべく、ゴキブリの口器にある味覚感覚毛の一本一本に電極を接続して感覚ニューロンの応答を調べるという実験を3年以上にわたって2000匹のゴキブリについて繰り返した日本人研究者も紹介しています。勝又(和田)綾子という女性です。すごい、ですね...。こんな地道な実験をする学者のおかげで毎日の安全・快適な生活が保持されているのですよね。感謝、感謝です。
(2021年6月刊。税込2970円)
2021年12月 6日
隣のボノボ
(霧山昴)
著者 坂巻 哲也 、 出版 京都大学学術出版会
ボノボは、アフリカ中央部のコンゴ民主共和国の森林にすむ。体長80センチほどで、体重は35キロ以下。コンゴ盆地に生息し、ゴリラやチンパンジーとはすみ分けている。
肌は黒い。ボノボの声は鳥のように甲高く、ピャーピャーと叫びあう。
地面を歩くときは、手の平を地につけず、指の背を地面につけるナックルウォークをする。
樹上では、手と足の両方で枝を握る。ヒトにはまねができない。
ボノボはメスを中心として1年を通して集まりがよい。強さを示すデイスプレイを若いオスがよくするが、そんなオスにもメスはまったく動じない。あまりにうるさいオスがいると、子持ちのメスたちが束になってオスを追い払ってしまう。母親は大人になった息子のサポートを欠かさない。
ボノボのすむ森には、村人たちもふつうに生活している。両者は平和的に共存している。
著者は2007年からコンゴでボノボの調査を始めた。その前は、タンザニアでチンパンジーの調査をしていた(1997年から)。
ボノボの調査のためには、そばにいることに慣れてもらう必要がある。その存在を無視してくれるほど、気にしなってもらうこと。いやあ、そのためには、時間がかかることでしょうね...。
著者はボノボの調査のため、朝3時に起き、4時ころ朝食をとって、弁当をつくって暗いうちに出かける。ボノボの寝ているところに朝6時前には着く。いやはや、まだ森の中は暗いんでしょう...。大変ですね。
ボノボは、顔に毛が生えていないので、表情の動きがわかりやすい。それでもヒトほどには、表情をコミュニケーションには使わない。
ボノボの脳みそはヒトの3分の1の大きさ。
ボノボを個体識別する。性と成長段階を確認し、メスなら幼子を確認する。そして、身体的特徴を見つける。
年配のメスがおいしいそうな果実をかかえ、その周りでコドモがおねだりする。オトナがおねだりすることもある。じっとのぞき込むようにして、すぐ近くに立つのは、物をねだるときのしぐさ。気づいていなかのように目をあわせないのは、簡単に分けてやりたくないときのしぐさ。
ボノボのメスどうしは、日に何回か「ホカホカ」をする。これから採食をはじめようとする前。メスどうしが正面から抱きあい、お互いの性皮をこすりあわせる。気持ちよさそうにしている。
ボノボのメスは、生まれた集団で一生を過ごし、メスは思春期を迎えて、お年ごろになると、生まれた集団を出て、よその集団へ移る。子育てすると、その後は集団を移ることなく、年齢を重ねていく。出産間隔は4年から5年ほど。
ボノボにとって、交尾には繁殖のためとは限らない役割がある。
ボノボの集団の出会いは平和的なもので、この出会いがないとメスは移籍しない。メスは、その後、数年にわたって所属集団が安定せず、いくつかの集団を渡り歩く。
ボノボは好奇心が旺盛で、人間を観察しにやって来る。
メスたちは、出自集団を異にするにもかかわらず、よく一緒にして、毛づくろいをして、見るからに仲がよい。
オスは、オトナになっても母親との結びつきが強く、多くの個体が分散するときも、母親と一緒にいることがほとんどだ。
ボノボには子殺しはない。これはチンパンジーとは異なる。
ボノボは、現在、2万頭以下でしかなく、近い将来、絶滅するとみられている。密猟と生息地の減少、そして病気の感染だ。
いやあ、森の中での観察って、本当に大変でしょうね。その苦労をしのびつつ、ボノボの生態、その平和的な生き方に学びたいものだと思いながら読了しました。とても、興味深い本です。
(2021年8月刊。税込2420円)
2021年11月15日
昆虫学者の目のツケドコロ
(霧山昴)
著者 井出 竜也 、 出版 ベレ出版
昆虫学者って、昆虫との一期一会(いちごいちえ)の出会いを大切にしている人のこと。
ふーん、そうなんですね...。
空をヒラヒラと舞うように飛ぶチョウは幼虫のころはイモムシ。それが5回も脱皮して、さなぎとなったあと、空に飛び出すのですから、本当に不思議です。
完全変態のチョウは、イモムシ時代と生活スタイルがまるで違っている。口の形まで変化している。イモムシの口は鋭い歯のある一対のあごがついている。葉っぱを上手にかじりとるため。このイモムシは、どんな植物の上にでもいるというのではない。ナミアゲハのメスは、生まれてくる子ども(イモムシ)が困らないように、卵を産みつけるミカンの木を探し出している。
では、どうやって探すのか。眼なのか、鼻なのか...。ナミアゲハは色を見分けられる。しかし、決め手は舌。味が決め手だ。
植物を食べる昆虫の多くは、単色性や狭食性。植物なら何でも、どんなものでも...というのではない。そして、食べる植物の部位まで限定されている。
100万種いる昆虫の半数以上は、植物を食べている。なので、昆虫を知るためには、まず植物を知る必要がある。
ナナホシテントウやナミテントウは肉食性。カイガラムシなどの害虫を食べるので、畑づくりの頼れる味方だ。うどん粉病をひきおこすカビを食べるキイロテントウもいる。
アリは世界に1万種以上、日本には280種以上が生息している。アリはハチの仲間で、シロアリはゴキブリに近い。アリは基本的に肉食性。アリ植物というのは、自分の体内にアリが居住できる空間を用意し、アリを住まわせている。
ハチは15万種ほどもいて、その半数以上は寄生バチ。多くの寄生者にとって、寄生相手を見つけだす重要な手がかりとなるのは香りだ。
ノミは、れっきとした昆虫。ノミの足は6本、ダニは足が8本(ただし、幼虫は6本)。世界には1800種のノミがいる。シラミも昆虫だ。
日本のホタルでも、西日本と東日本では光る間隔が違っているし、遺伝子レベルでも違いが分かる。同じゲンジボタルであっても、性質が異なるし、外来昆虫を持ち込んだのと同じ。いろいろ混ぜこぜしてはいけないということなんですね。
昆虫の写真がたくさんあって、昔の昆虫少年にとって、とても楽しい本でした。
(2020年5月刊。税込2090円)
2021年11月 8日
イルカと心は通じるか
(霧山昴)
著者 村山 司 、 出版 新潮新書
著者は動物が苦手。船に弱い。船に乗ると、必ず船酔いする。飛行機だって怖い。それなのに、著者はイルカの研究者。なぜ...。高校1年生のとき、テレビでたまたま「イルカの日」(1973年)という映画をみてしまったことから...。
イルカの脳は大きくて重い。イルカの能はヒト並みの重さがある。ヒトの脳は1400グラム。バンドウイルカは1500グラム。イルカの脳の表面にあるシワは、ヒト並みくらい、たくさんある。イルカの神経細胞の数は、100~200億個。これは、ヒトのそれが140億個なのより多い。
イルカたちは、狩りをするとき互いに協力したり、別の場所で練習してから本番の狩りにのぞんだり、オトリを使ったり、待ち伏せのような行動もする。また、イルカ同士が同盟を結んだり、母イルカに代わって乳母役をするイルカもいる。
紀元前5000年前の壁画にクジラが描かれている(ノルウェー)。そして、紀元前3000年ころの壁画にイルカが描かれている(同じくノルウェー)。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスはイルカが哺乳類であること、温血動物であることを知っていた。いったい、どうやって知ったのでしょうか...。
クジラもイルカも俗称で定義も違い、明確ではない。いずれも、祖先は陸上で四足歩行をしていた肉食動物だった。そして、祖先は偶蹄類のカバに近いことが判明している。
サメは魚類で、尾ビレが縦になっている。イルカの胸ビレの中には5本の指の骨がある。後肢は退化してしまったが、その名残の骨は、今でもイルカの体内には存在している。そして、尾ビレは水平についている。この尾ビレは、皮膚が肥厚したもので、陸に棲んでいたころの尾が変化したもの。
イルカが水棲生活して得た強力な能力は聴覚。イルカは、エコーロケーションという能力をもっている。水中は陸上より速く、遠くまで音が届く。
イルカは遊びが好き。イルカだって、練習しているとき、分かればうれしいに違いない。イルカは笑わない。顔には神経が少ない。
イルカが、エサをくれたりケアしてくれるトレーナーを、シルエットだけでなく、歩き方、足音のパターン、そして声などを総合して認識している。
イルカは勉強したら賢くなるし、イルカは、ほめられたら伸びる。7ヶ月たっても、ほとんど間違えることなく、覚えている。
シロイルカのナックは、聞こえた音をマネすることができる。ナックは、こちらがナックに向かって音を発したり、語りかけたときだけマネして返してくる。つまり文脈を理解して模倣している。オウムや九官鳥のように、誰もいないところでスナックがコトバを発することはない。そこに違いがある。
シロイルカのナックは、1988年にカナダからやって来た。少し気が強いところもあるが、根がまじめで、曲がったことが嫌いな性格。
いやあ、根がまじめだとか、曲がったことが嫌いだなんて、どうして分かるのでしょうか...、不思議です。イルカの生態をさらに少し知ることができました。
(2021年9月刊。税込858円)
2021年11月 1日
おもしろいネズミの世界
(霧山昴)
著者 渡部 大介 、 出版 緑書房
私はネズミ年の生まれですし、ミッキーマウスなど、ネズミって可愛いですよね。でも、ドブネズミは大きいし、怖いです。
ネズミ博士がネズミの世界を面白く語っている本です。
世界には5400種の哺乳類がいて、ネズミの仲間(げっし目)はその4割2300種を占め、最大のグループだ。次の1200種のコウモリに大差をつけている。
真のネズミ(ネズミ形亜目)は1500種いる。
ネズミの歯は上下2本ずつの門歯(切歯、前歯)がノミのように生えていて、かじる能力が非常に優れている。
ネズミという名前は、根栖み、根住(棲)み、寝盗み、に由来するようだ。古事記には「禰須美」として登場している。
日本固有のネズミは9種。アカネズミ、ヒメネズミ、セスジネズミなど...。カカネズミは、最小。
モグラは肉食なので野菜は食べない。ただ、モグラのトンネルを利用して、野菜を食べる家ネズミやハタネズミがいる。
ネズミの聴覚は優れていて、人間には聞えない周波数の音で、仲間同士、コミュニケーションをとっている。
ネズミは「寝住み」とも呼ぶように、多くは夜行性。
ネズミの嗅覚は人よりはるかに優れていて、地雷撤去で活躍している。火薬のにおいを探りあてる。オニネズミは体重が1キロしかないので、ネズミが地雷を踏んでも爆発はしない。
ネズミの長いヒゲは、視力の弱いのを補って、重要な役割を果たしている。
ハリネズミはモグラの親戚で、ネズミの仲間ではない。
ネズミは味覚も敏感。ネズミは甘味と塩味を好み、苦味、酸味は苦手。
ネズミの毛は蒔絵(まきえ)の筆として最上級。数十頭のネズミの最上の毛でつくられた本根朱筆(ほんねしゅふで)は、最上級。
ネズミは一晩に週十回の交尾行動を繰り返すので、交尾するとほぼ妊娠する。
マウスやラットは、20日間の妊娠で出産し、そのあとすぐ交尾して妊娠して20日後には出産。1ヶ月弱のサイクルで、一度に多いと10頭の子を産むので、それこそネズミ算式に増えていく。
ヘビを飼うとき、エサとしてネズミを与える。丸飲みにし、そのほとんどを栄養として消化・吸収できるため、ヘビには紫外線すら必要がない。
ネズミは、ダニなどの外部寄生虫の宿主となり、また病原性細菌やウィルスの感染源にもなる。
垂直方向で移動できるのは、家ネズミではクマネズミだけ。ドブネズミにはできない。それでクマネズミが今や日本最大勢力を誇っている。
日本における最初のネズミ飼育記録は江戸時代にある。ネズミを飼い馴(な)らすための教本として『養鼠玉のかけはし』(1775年)や『珍玩鼠育草』(1787年)が出版されている。いやあ、驚きました。江戸時代にすでにネズミの飼い方の本があったとは...。
たくさんのネズミを知ることができる本でした。知れば知るほど、ムチュウになりますよ...。
(2021年7月刊。税込1980円)
2021年10月18日
植物のいのち
(霧山昴)
著者 田中 修 、 出版 中公新書
100歳をこえた日本人は1963年に153人だったのが、2020年には8万450人。すごい増えかたです。そして、世界には45万人もいるのです。いやはや、地球環境の悪化による食糧危機というのは、どうなっているでしょうか...。
世界中に存在する木は3兆4000億本なのだそうです。地球上の人口は75億人だから、1人あたり400本になります。
そして、木の長寿番付は...。屋久島の縄文杉は3000年でしょうか。アメリカには、樹齢4700年のブリッスルコーン・パイン(イガブヨウマツ)があるとのこと、すごーいですね。
食虫植物も光合成はしている。ただ、虫からタンパク質などの窒素をふくんだ物質を手に入れている。ふつうの植物は、窒素をふくんだ栄養分を土の中から吸収している。
レンゲソウは、根の粒々の中に住まわせている根粒菌が空気中の窒素を窒素肥料に変えることができる。
大賀ハスは、2000年も前のタネが発芽したもの。一般的にタネは、悪条件に耐え、発芽せずに発芽のチャンスを待ち続けることができる。
紫外線は、人間にも植物にも同じように有害。植物は、からだの中で発生する「活性酸素」を消去する術を身につけている。その抗酸化物質がビタミンCとビタミンE。
ジャガイモのイモは茎(くき)なので、光があたると緑色になる。これに対して、サツマイモのイモは根なので、光があたっても緑色にはならない。
サツマイモが花をさかせるためには、「暖かい長い夜」が必要。本州では、夜が長い秋は暖かくないので、花は咲かない。なので、夜が長い秋にも暖かい沖縄では花が咲く。だから、サツマイモの品種改良は、サツマイモの花が咲く沖縄で行われた。
チューリップは、タネをまいて花が咲くまで、5年か6年はかかる。なので、球根を植えて、翌年、花を咲かせる。
アメリカのユタ州のフィッシュレイク国立森林公園には、樹齢8万年というカロリナポプラの木がある。その根は8万年も生き続けていて、地上面に4万本も木を茂らせている。その面積は、東京ドーム9個分の43ヘクタール。いやあ、すごい木ですね...。
キンモクセイもジンチョウゲも、どちらも日本には雄株だけ。なので、挿し木で増やしている。タネができないからだ。
植物の不思議を少しだけ知ることができました。
(2021年5月刊。税込946円)
2021年10月11日
生命海流
(霧山昴)
著者 福岡 伸一 、 出版 朝日出版社
ええっ、このコロナ禍の下で、ガラパゴス諸島へ行ったのですか...。
『動的平衡』などの著者として有名な著者が、2020年3月、ガラパゴス諸島へ行き、船を一隻チャーターしてダーウィンの1ヶ月の航路を1週間でたどったのです。
実は、コロナ禍がひどくなる直前で、危機一髪だったのです。あと何日か遅れたら、エクアドルかどこかで缶詰めにされるところでした。
ガラパゴス諸島の航海図が本のはじめに添付されています。本当にたくさんの島から成っているのですね、初めて知りました。
島は全部で123島。主な島は13島ある。これが関東平野くらい広い範囲に分布している。この太平洋の島々は、プレートのせめぎ合いの上に生まれた。北側のココスプレート、南側のナスカプレート、この二つがぶつかり、地下からマグマを噴き上げる海底火山、ホットスポットが生み出された。そして、ナスカプレートの上に乗って島々は南東の方へゆっくりと動いていく。その速度は1年に5センチ。100万年の間隔で、次の火山活動が起きて新しい島の列ができる。
いやあ、ガラパゴスの島も生きているのですね。
このガラパゴス諸島は、エクアドルの領土。移民を送り込んで定住させたが、大変な困難をともなった。まあ、アメリカ領土になっていたら、観光資源として「利用」され、貴重な生態系が滅茶苦茶になっていたことだろうと著者は指摘しています。
ガラパゴスの生物も砂も、一切がもち出し禁止。そして、外部からの持ち込みがないよう、靴の底の泥まで洗浄させられるのです。
ときどき不心得の観光客(収集マニアなど)が持ち出しを試みて捕まっています。日本人もいるようです。泣いて謝罪したというのですが、そんなことで許されるはずもありません。世の中を甘くみてはいけません。エルサルバドルの刑務所に入れられた日本人は、果たして生きて出てこれるのでしょうか...。
ガラパゴスにすむゾウガメは、ふだんは高度1千メートルの火山のカルデラ内外にいる。ゾウガメは草食。高地からエサを求めて何日もかけて下りてくる。ゾウガメは一度エサをとると、水やエサを与えなくても1年近く生きている。
ダーウィンたちはゾウガメを食べた。「なかなかの味だった」と評している。
ゾウガメは、卵のとき、赤ちゃんガメのときには天敵に食べられる心配があるが、それを過ぎたら、もはや天敵はいない。サボテンやリンゴを食べながら、ゆっくり長生きする。ゾウガメの最大寿命は200年。体長1メートル、体重300キロにまで成長する。いやはや、途方もないことです。
そして、このゾウガメの祖先は南米大陸にすむリクガメ。でもリクガメは泳げない。なにかの自然災害が起きて、付近の植物がイカダの役割をしてリクガメがガラパゴス島に流れついたのではないかと想像されている。
ガラパゴス諸島の生き物たちは人間を恐れない。恐れないどころか、近くにやってきて、一緒に遊ぼうよと、ちょっかいをかけてきたり、好奇心旺盛だ。
著書は空を飛ぶグンカンドリの行動をみて、一緒につきあってくれたと解しました。
また、海中ではアシカが寄ってきて、足のフィンに甘がみしたりして、一緒に遊ぼうよと誘ってきた。小鳥だって、そうだ...。
ガラパゴス諸島をチャーター船で1週間かけて巡るなんて、これぞまさしく究極の理想の旅ですよね。船のトイレに苦労したり、真水シャワーが少なかったりの不便はあるものの、三度三度の豪華な食事、そして海を眺めながらのビールなど、これほどの極上の旅はないでしょう。プロのカメラマンによる写真もまたすばらしく、ガラパゴス諸島を紹介する決定版の一つです。いやあ、実にうらやましい限りです...。
(2021年6月刊。税込2090円)
2021年10月 9日
きずな図鑑
(霧山昴)
著者 中村 庸夫 、 出版 二見書房
海に生きる生き物の姿が見事にとらえられている写真集です。
親子、夫婦、群れ、そして異種の仲間たち...。これらの写真全部を一人で撮ったなんて、とても信じられません。
著者は私と同じ団塊世代(1949年生まれ)です。早稲田大学の大学院(理学研究科)を出たあと、プロの海洋写真の世界に飛び込んだようです。
いくつもの新しい発見がありました。人喰いザメの見分け方。サメには背ビレが2つあり、この2つの背ビレの大きさが大きく異なるときは危険ザメ。
たとえばネムリブカは、第2背ビレが大きく、第1背ビレの4分の3ほどの高さがあることで安全なサメとされている。好奇心が強く、慣れると人間の手からもエサを食べる。
オオカマスは、海中で集団を形成して泳ぐ。捕食されるのを、こうやって防ぐ。オオカマスの体の側面中央部にある「側線」と呼ばれる1本の線で、微細な水の流水を感じとることができ、光の届かない深海や濁った水のなかでも隣の魚の動きも感知できる。
なお、魚群には通常リーダーはいないので、もよりの魚の動きを感知して同一行動をとっている。
マナティー。ここではフロリダマナティは、海牛目の哺乳動物で、ゾウと同じ祖先から進化したと考えられている。大きな体ながら草食性。
貴重な写真集、眺めているだけで、心が洗われる気がしてくる見事な写真集です。
(2020年4月刊。税込2453円)