弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年9月 8日
まじめに動物の言語を考えてみた
生物
(霧山昴)
著者 アリク・カーシェンバウム 、 出版 柏書房
軽井沢の林に籠って鳥(シジュウカラ)の鳴き声に意味があることを解明した本を読みましたので、その関連で読んでみた本です。
人間だけが唯一無二の存在で、動物たちは、ただ無意味な雑音を立てているだけなのか...。深く研究していくと、決してそうではないことが分かってきます。先ほどのシジュウカラの鳴き声がそうです。ヘビが来た、危ない、逃げろと言っているのです。
今では動物たちの鳴き声をただ耳で聴いているだけではありません。スペクトログラムという、音を視覚的に表現したものを駆使します。音を時間と音高に分解して表示します。つまりは楽譜のようなものです。
まずは、オオカミの遠吠え。ヒトは、これに本能的に反応する。昔、オオカミから襲われていたからでしょうね、きっと...。
オオカミは警戒心の塊。その生活は常に、生きのびるか餓死するかの瀬戸際にある。
オオカミは、社会関係の調整のため、懇原、おだて、脅しなど、さまざまな手管を用いる。
オオカミの狩りは4頭もいれば十分に成功する。しかし、成功したあと、近づいてくる邪魔者を遠ざけるには数の力が不可欠。そのため、オオカミの群れ(パック)は10頭ほどいることが多い。
オオカミの遠吠えは、10キロ離れていても聞こえる。長距離コミュニケーションの手段だ。
イルカは、口を開けることなく、噴気孔の奥深くで音を出す。イルカは、やたらと遊んでばかりいる。イルカは何でも調べつくさないと気がすまない。
イルカは音声を主要なコミュニティの手段としている。イルカは人間と違って口で呼吸しない。イルカの音声は、すべて噴気孔、つまり鼻から発せられる。
イルカは、自分自身の名前を表わす、ひとつの特別なホイッスルを発している。
ヨウムは中型で寿命の長いインコだ。飼育下では60歳、野生でも25歳まで生きる。
ヨウムはずいぶんのんびりしたコミュニティで過ごす。ヨウムの日常は、リラックスしている。
ヨウム同士は、声で勝負して、上下関係を確立する。
中東と東アフリカにいるハイラックスの外見はモルモットとウサギの雑種のようだ。
ハイラックスの歌が興味深いのは、そこに統語があるらしいこと。優位オスは、1日のうち、過剰なほど長い時間を歌っている。それによって群れのメスを守っている。複雑な歌で他のオスに差をつける。
すべてのテナガザルは歌う。それはつがいのオスとメスの絆を強めるためのもの。テナガザルの歌が複雑なのは、歌い手が健康であり、ペアの絆が強いことを知らせている。
テナガザルの母親は、積極的に歌を変化させて娘の学習を手助けする。娘が正確に復唱できるように、ピッチとテンポを調整する。
テナガザルと人間は歌う。でも、チンパンジーもゴリラもボノボもオランウータンも歌わない。なぜなのか...。
チンパンジーは集団で生きている。しかし、チンパンジーは安心しきって平和な眠りにつくことはない。いつだって片目を開けてトラブルを警戒している。チンパンジーは、音声によって複雑な情報を伝達しているのだろう。チンパンジーは、適切な発生装置を身体に備えていない。チンパンジーは嘘をつける。
サハラ以南のアフリカに広く分布するミツオシエは人間を利用し、人間もミツオシエを利用している。蜂蜜を探し当てる。人間は蜂蜜を、ミツオシエは、幼虫と蜜蝋を保つ。人間は、ミツオシエを呼ぶため、トリルとグラントを組み合わせた特別な音声を出す。
そのうち、AIを使って翻訳機を通して動物たちの叫びをストレートに理解できるようになるのでしょうね、きっと...。でも、それは少し怖い気もします。
(2025年5月刊。2860円)