弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年9月 6日
「痛み」とは何か
人間
(霧山昴)
著者 牛田 享宏 、 出版 ハヤカワ新書
突然、腰が痛くなりました。自覚的には何の出来事もなく、何の予兆もありません。ギックリ腰のようです。長い時間、椅子に座ってパソコンを眺めたり、書きものをしていて、立ち上がろうとすると、腰に嫌な痛みが走ります。そばに何かあると、それを手でつかんで、よっこらしょという掛け声とともになんとか立ち上がるのです。歩くのは何ともありません。トイレも便座に腰かけたあと立ち上がろうとすると傷みます。
そこで、私は、こんなときはハリだと思って出かけたのです。わずか40分間ほどでしたが、終って鍼灸院を出るとき、何事もなかったようにスッキリしていました。いやあ、すごいものです。ハリがこんなにも速効性があるとは、とても信じられませんでした。
脊髄は、首から腰までつながっている、大きな神経のパイプラインのようなもの。脳からの信号を手足に伝えて動かしたり、逆に手足の感覚を脳に伝えたりする役割を果たしている。なので、脊髄を損傷すると、下半身が動かなくなり、ずっと車イス生活になる人がいる。
先天性無痛無汗症という珍しい病気がある。まず、温度の感覚や発刊障害が起こる。なので体温調節がうまくいかない。そのうえ、全身の痛みを経験できない。すると、痛みを感じないので、知らず知らずのうちに、自分の身体を傷つけてしまう。したがって、逆に言うと、痛みを感じることは、ヒトの生体防御機構にとって大切なこと。体の異常をいち早く検知し、健全な身体を保つために不可欠のものだということ。
痛みとは何なのか...?痛みの定義は、実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する。あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験というもの。
このとき、感覚ニューロンの活動だけから痛みの存在を推測することは出来ない。
日本人の人口の15%ほどが中等度以上の身体の痛みを半年以上もっているとされる。
痛みのメカニズムには3つある。その1は、実際にケガが生じて引き起こされるもの、その2は、痛みを伝える神経系が傷ついて痛くなるもの、その3は脳が過敏になって痛みを感じやすくなるもの。
「熱い」と「痛い」は、神経メカニズム的には同義。
痛みは、手足の末梢から脊髄へ、それから脳へと伝言ゲームのように情報が伝達されて経験するもの。乳幼児は、母親の反応によって、「痛み」のもつ意味を初めて学習する。
過度に安静にする傾向のある人のほうが、概して痛みを強く訴えているケースが多い。
関節リウマチには、適切な治療薬(メソトレキセート)があり、今では不治の病ではなくなった。
五十肩など、関節を動かすと痛がるような患者には睡眠障害が必ず起きる。そして、眠れないと、痛みが増してしまう。
抗うつ薬は、痛みに対して効果がある。うつ状態が改善されると、患者の痛みに対する耐性も向上する。
1日に少しずつでもがんばって運動を続けていくと、必ず体力は強化される。
痛みというものは客観的に定まったものと思っていましたが、案外つかみどころのないものだということがよく分かる新書です。
(2025年4月刊。1320円)