弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年8月29日

NHK「かんぽ不正」報道への介入を許さない

社会


(霧山昴)
著者 NHK文書開示等請求訴訟原告団 、 出版 あけび書房

 この冊子のタイトルは「介入・隠蔽を許さない」です。また、原告団と弁護団の共同編集に成ります。この裁判が求めていたのは、NHK経営委員会の議事録の公表、そして議事録を隠蔽した森下俊三・経営委員長(当時)の責任追及です。
 なんと、東京高裁の和解において、この二つとも勝ちとることが出来たのです。画期的な勝訴的和解です。
 議事録は作成していないと被告側は当初主張していました。しかし、議事録は作成すべきものです。和解では「録音粗(あら)起こし」を議事録としてNHKのホームページに掲載して公表することになりました。議事録は「ない」のではなく、あったわけです。「ない」なんて裁判所までNHK側は騙そうとしたのです。
 もう一つの責任追及については、森下経営委員長(当時)は原告1人につき各1万円の合計98万円を支払うことになりました。わずか100万円ほどではありますが、いい加減なことは許されないという貴重な前例をつくったと評価できます。
 この冊子によると、歴代のNHK経営委員長は、安倍晋三首相(当時)を応援する財界人の集まり「四季の会」のメンバーか、それに連なる人々が6期にわたって占めているそうです。彼らは、NHKが財界の意に反するような番組を放映しないように目を光らせているわけです。そう言えば、選挙報道もNHKの報道は、明らかに政権与党寄りですよね。ひどいものです。
 私は「ダーウィンが来た」は録画して欠かさず観るようにしていますし、朝ドラを含めてなかなか意欲的な番組づくりがNHKの現場ではされていると考えています。でも、全体としては政権の提灯持ちの傾向は明らかだと言わざるをえません。
 NHKの経営委員長の候補者として前川喜平氏は自ら名乗りをあげましたが、まったく無視されてしまいました。現に経営委員になっているメンバーの顔ぶれは、残念ながらNHKのあるべき姿なんか考えたこともないような人ばかりです。
 経営委員になった石原進(JR九州出身)そして古賀信行委員長(野村証券出身)の2人は、どちらも福岡に関わりがありますが、まさしく財界代表でしかありません。
この問題は、かんぽ生命保険の不正販売をNHKが報道したことから、郵政3社が反発してNHKに申し入れをしたことに端を発しています。つまり、財界側として「不正」を隠蔽しようとしてNHKの経営委員長がNHK会長に「厳重注意」したというのです。経営サイドが番組編成に介入したという、とんでもないことなのです。ただし、こんなことはNHK内部では日常茶飯事になっていることなのかもしれません。
 でも、そんな介入・隠蔽を許しておくわけにはいきません。それで心ある市民が訴訟を提起して、実質勝訴したという流れです。わずか116頁の冊子ですが、NHKを国民の側に引き寄せようという不断の努力の一つとして紹介します。
奈良の佐藤真理(まさみち)弁護士より贈呈を受けました。ありがとうございます。引き続きのご健闘を心より祈念します。
(2025年3月刊。1320円)

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