弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年9月 2日
丸刈りにされた女たち
フランス
(霧山昴)
著者 藤森 晶子 、 出版 岩波現代文庫
第2次大戦中のフランスでドイツ兵と親しくしていた女性たちが終戦後、ナチス・ドイツへの復讐といわんばかりに、頭髪を丸刈りにされ、市中を行進させられました。この本は、その被害にあった女性を訪ねて、その心境、そしてその後どのような人生を送ったのかを掘り起こしています。
著者は広島生まれの40代の日本人女性です。どうやら、フランスでは先行研究があまり多くはないようです。
この本によると、戦後のフランスで丸刈りにされた女性が2万人いて、そのうち半数がドイツ人兵士と性的関係をもっていた。残り半分の女性は、経済的協力者、密告者、対独協力的組織に加入していた政治的協力者など。
捕まった女性は、対独協力が市民として許容範囲内とされたら釈放され、そうでなければ祖国反逆罪を問われ、公民権が剥奪された。
公共の場で丸刈りをするというのは、実は、ナチス・ドイツが始めたもの。これに対しては市民が被害者に同情を抱き、ナチスに対して拒否的な態度をとる市民は多かった。
フランスでドイツ人兵士と性的関係をもったフランス人女性は多かったが、実際には、丸刈りを免れた女性のほうが圧倒的に多かった。それは、人前で大っぴらに付き合っていなかったら分からなかったから。
ノルウェーには多くのドイツ人兵士が駐留していたことから、人口3千万人の国にドイツ人兵士が父親とされる子どもは1万2千人近くもいるとされている。
フランスで女性の丸刈りを実行したのは住民が自発的にやったこととされてきたが、実はレジスタンスの活動家が8割を占めていた。そして、それは、占領下のときから準備されていた。
丸刈りの対象となったのは、娼婦については比較的に寛容であった。女性たちは、身体ではなく、心を売ったことが咎(とが)められたのだった。
歴史は、いつの時代にあっても、ジグザグに進むものなんだな...。そんな感想を抱きました。
(2025年4月刊。1060円+税)