弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年5月 4日

罪名、1万年愛す

社会


(霧山昴)
著者 吉田 修一 、 出版 角川書店

 ミステリー小説なんですが、戦後の混乱状況に生きた人々の戦後をたどる話として読ませます。
 「1万年愛す」というのは、ルビーのペンダントの名前。今の価値だと35億円にもなろうかという、とんでも高貴な至宝です。なぜ、そんなものが、この本のタイトルなのか...。そんな至宝を島に住む招待主が所持しているというのです。でも、それがホンモノなのかは、最後まで分かりません。
そもそもの事件が起きたのは、なんと45年前の1978年、多摩ニュータウンの団地に暮らしていた主婦が突然、失踪してしまったこと。
 そのとき、ひょんなことから、この超大金持ちが容疑者の一人となった。そして、その容疑者に対する捜査にあたっていた元警察官も、この島に招待された。なんだか不思議な話ですよね...。
 そして、話はさらにさかのぼって、日本敗戦後の上野駅にたむろしていた戦災孤児の話になるのです。そこでともに生きていた仲間から、成功した人間も出たのです。そして、死んだ人の戸籍をもらって生きていったのでした。
 そんな孤児が社会的に成功して今があるわけです。主婦失踪事件も意味のある行為であって、殺人事件ではなかったのでした(ネタバレ、ごめんなさい)。
 まあ、さすがに手慣れた様子で話が展開していきますので、いったい、この先どうなるんだろうと思って一気読みしてしまいました。
(2024年10月刊。1980円)

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