弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年5月15日
イスラエルの自滅
中近東
(霧山昴)
著者 宮田 律 、 出版 光文社新書
剣によって立つ者、必ず剣によって倒される。これは聖書(マタイによる福音書)の言葉ですが、アフガニスタンで活動していた中村哲医師がよく紹介していたそうです。
イスラエルのネタニヤフ首相によるガザ地区への軍事侵攻がまだ続いていますが、必ずやこの言葉どおりになるものと私も思います。しかし、ともかく一刻も早く、イスラエルは軍事侵攻をやめて撤退すべきです。
イスラエルの国内も、この軍事侵攻によって経済などは大変なようです。そして、軍事侵攻に反対する声も大きくなっているけれど、まだまだネタニヤフ失脚とはならないようなのが残念です。
国際刑事裁判所(ICC)はガザでの戦争で多数の罪なき市民を殺害したことによりネタニヤフ首相に対して戦争犯罪として逮捕状を発行している。そして、国際司法裁判所(ICJ)も、イスラエルの占領や占領地での入植地拡大を国際法違反であると判断している。このどちらの裁判所も日本人の裁判官が所長として重要な役割を果たしていますが、肝心の日本政府は知らぬ顔をしたままで、ここでもアメリカ政府に追随するばかりです。本当に情けないです。
岸田前首相も石破首相も沈黙しています。そして、ウクライナからの避難民は多少受け入れても、ガザからのパレスチナ避難民の受け入れはゼロなのです。ひどすぎます。
2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃について、イスラエルの軍と諜報機関は事前につかんでいたが、ハマスにそんなことは出来るはずがないと判断して、何の対策もとらなかった。ハマスを甘く見過ぎていたということですね。
この本を読んで残念なのは、イスラエル国内で、ガザへの軍事侵攻に反対する声は強まっているものの、世論は全体として右翼的になっていて、これまで和平を追求してきたイスラエル左翼が「絶滅」状態にあるということです。
現在のイスラエルでは、「ピース、キャンプ」と呼ばれる平和主義のグループが政治や社会を主導するような可能性はほとんど感じられない。
イスラエルはガザのハマスも、そしてレバノンのヒズボラも軍事力によって根絶することは不可能。
イスラエルは、ガザ戦争によって25万人の国民が避難を余儀なくされ、36万人の予備役兵が召集されたため、イスラエル経済は停滞している。
イスラエルの建設業が不振に陥ったのは、ガザ戦争のためヨルダン川西岸やガザからパレスチナ人労働者を調達できなくなったことが大きい。建設業の低迷によって、経済全体が19%も落ち込んだ。食料自給に関わるイスラエルの農業も危機的状態にある。
イスラエルを訪問する外国人観光客も大幅に減少している。この分野でもイスラエル経済は打撃を受けている。そして、イスラエル人観光客は世界中で拒否されている。
50万人のイスラエル人が国外に流出し、イスラエルに移住してくるユダヤ人は減少している。
イスラエルの総人口は東京都の人工より少なく、1000万人未満。
日本政府は、アメリカに追随することなく、イスラエルに対してガザ戦争を止めるよう、はっきり求めるべきです。
(2025年1月刊。940円+税)