弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年5月16日

消された水汚染

社会


(霧山昴)
著者 諸永 裕司 、 出版 平凡社新書

 今やPFAS(ピーファス)として有名になった汚染物質を追跡した新書です。
 フライパンにテフロン加工すると、サビつかないというので、大流行しました。防水スプレー、泡消火剤そして半導体で使われました。それが、今では発がん性のある有害・有毒物質として、この世の嫌われものなのです。ところが、当局は、その危険性をずっと覆い隠してきました。
 アメリカ映画「ブラック・ウォーター」は実話にもとづくアメリカ人弁護士が活躍するストーリー展開です。もう20年も前の話ですから、すっかり解決されているかと思うと、おっとどっこい、日本ではまさに現在進行形の怖い話なのです。
 東京は多摩地区で深刻なPFAS濃度が検出され、多くの井戸水が使用禁止とされました。その原因は横田にあるアメリカ軍基地です。大量に使われた泡消火剤にPFASが使用されていたのです。ところが、東京都はそのPFASによる汚染データをもっているのに公表せず、隠していました。著者は、「えげつない」と非難していますが、まったく同感です。汚染データを公表したら人心の動揺(パニック)を生じるからという理由です。とんでもありません。真実はきちんと住民に知らせて、ともに解決法を考えていく必要があります。
 横田基地で、大量のジェット燃料が漏れ出たとき、泡消火剤が大量に使用されたのでした。その量はなんと3千リットルというのですから半端な数字ではありません。東京都はそれを知っても公表せず、またアメリカ軍基地への立ち入り調査もしていないのです。
 日米地位協定によって、アメリカ軍は日本国内で好き勝手なことをし続けています。日本政府は、いつだってへっぴり腰で、アメリカにモノ申すことが出来ません。
 それは沖縄でも同じことです。日本政府は日本国民の生命・健康を守ろうとしていません。そして、アメリカ軍は、日本人のことを何とも思っていません。性犯罪の横行もそれを意味しています。
 日本政府が駐留米軍のために「思いやり予算」を支出しているのは、今ではかなり広く知られています。でも、アメリカ軍が個人を含めて日本側に損害を与えて賠償しなければいけないとき、それを実際にしているのは日本政府なのです。アメリカ軍に分担請求もしません。その金額220億円をアメリカに支払うべきなのに、知らん顔をしたままです。情けない話です。
アメリカに日本は守ってもらっていると信じ込んでいる日本人が今なお、なんと多いことでしょうか。当のアメリカ軍人のトップは、日本を守るのは自分たちの仕事(役目)ではないと、何回も高言しているにもかかわらず...。それにしても、飲み水の安全性をもっと重視したいものです。日本政府も自治体も早くなんとかしてください。
(2022年1月刊。980円+税)

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