弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年5月 9日

明日の法律家

司法


(霧山昴)
著者 リチャード・サスキンド 、 出版 商事法務

 イギリスの学者が、これからの司法世界は劇的に変化すると力説しています。日本の片田舎でしがない弁護士をしている身に直接ふりかかってくる気はしていませんが、いずれは大きく変わるんだろうなという気がします。
この本で著者は、「私の呼びかけは、年齢ではなく、心が若い人に向けてのものだ」というジョン・F・ケネディの言葉を引用しています。そうならば、私に対する呼びかけの本でもあると受けとめました。
 今後の25年を見渡すならば、法律家や裁判所が、今までと同様に業務を行うと予想するのは現実的ではない。リーガル・マーケットは、現在、著しく流動的な状況にある。この変化には3つの主たる推進要因がある。「より多くのものをより安く」という課題。自由化。そしてテクノロジー。
弁護士のクライアントは多様化している。多くの企業で全体の法務予算を30~50%も削減するよう要求されている。
一般市民について言えば、我々の生活のあらゆる面で法律が中心であるにもかかわらず、公的法律扶助の劇的な削減により、今では非常に裕福な人が非常に貧しい人しか弁護士のサービスを利用できないという結果になっている。市民も「より多くのものをより安く」という課題に直面している。これはイギリスの話ではありますが、日本でも決して無縁な状況ではありません。
 イギリスでは、弁護士でない者が法律事務所の所有者(オーナー)になることが認められている。そこで、ビッグ4巨大会計事務所(KPMG、PWC、Pelo、He、EY)が、多くの法律事務所を支配している。ビッグ4会計事務所のすべてが、競争力と資本力を備えてイギリスのリーガル・マーケットに戻っている現実を忘れてはいけない。
 アメリカでもダムが決壊しはじめている。デジタル・テクノロジーは、一時的な流行ではない。
 世界のリーガル・マーケット自体は1兆ドル規模になっている。世界のリーガルテックへの支出の90%以上が法律事務所によるもの。
 タイム・チャージは効率化を妨げる制度である。それは、効率よく仕事をする同僚よりも時間をかけて仕事をする弁護士に報いるものである。
 多くのアソシエイトは年間2500時間もの請求時間を働くことが期待されている。これは法律事務所には大きな利益をもたらすが、クライアントはますます失望する仕組みである。
多くのパートナーが年間100万ポント超を稼いでいる事務所が世界に100以上ある。
 タイムチャージでなく固定報酬を請求する法律事務所も、利益率を下げるつもりではなく、提案していない。著者は、弁護士の費用それ自体が高くなりすぎていると主張しています。
 多くの弁護士は、法律業務を高度にオーダーメイドなものとみなしているが、それについて著者は反論します。それは生産性のないフィクションだ。オーダーメイドの対応を要求される法律業務は、多くの弁護士がクライアントに信じさせようとしているほど多くはない。このように主張します。弁護士は過去に同様の事案を扱っているのだから、そこでは一定の標準化が期待されるはずだというのです。
 AIによる自動文書作成は、質問に回答するユーザーが法律専門家や弁護士でなくてもいいという利点がある。これは、クライアントにとっては、今までよりも劇的に低廉なサービス価格となる。その一方、法律事務所にとっても、眠っている間に利益を上げるチャンスをもたらす。これは、タイム・チャージ・モデルからの根本的な離脱となる。
 こうして、リーガル・サービスのコストは低下し、価格は一定となり、業務が完了までにかかる時間が短縮され、そしてサービスの品質が向上する。これはAIなどを駆使して、判例・学説の検索によって一定の法律文書を作成するというイメージなのでしょうか...。
 これまでの法律事務所は、非常に高いレートの若手弁護士を使って、大量の(ときには何百もの)文書を精査させていた。しかし、それをアウトソーシングしたら、7分の1のコストで質の高い仕事をしてもらうことができる。そして、在宅で仕事をする弁護士をパートタイムで活用することが可能となる。
 法律プロジェクトの遂行課程のすべての段階で人間の法律家が必要だと考えなくてよい。
 稼働時間(稼働時間ではない)を請求することで利益を保っていた弁護士は必要ない。オンコール、常時接続性だ。
 これからの法律事務所は代替的リソース戦略をとらなければ、長期的にみると、半数以上が生き残れないだろう。多くの若手弁護士の労働コストは高すぎるものになっていく。
 ということは、今、日本の五大事務所が毎年40人も50人も弁護士を採用していますが、これもそのうち頭打ちになり、しかも削減されていく可能性があるということなのでしょうね...。
 果たして、本当にそうなるものでしょうか。
 アメリカでは、毎年ロースクールは4万5千人もの卒業生を送り出しているが、求人のほうは2万5千人(2018年)しかない。そして、ロースクール卒業生自体が10年前よりも1万人も減っている。
 インターネット活用のなかで弁護士と司法世界がどうなっていくのか、考えさせられる刺激的な問題提起にあふれている本だと思って読みました。
(2025年4月刊。3500円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー