弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年7月30日
世界最凶のスパイウェア・ペガサス
アメリカ
(霧山昴)
著者 ローラン・リシャール、サンドリーヌ・リゴー 、 出版 早川書房
イスラエルのNSOが誇るサイバー監視ソフトウェア・ペガサスは、暗号化を含むセキュリティを破って相手のスマートフォンに不正侵入し、スパイウェアの存在を知られることなく、端末をほぼ意のままにできる。スマートフォンを使って送受信したあらゆるテキスト、通話内容、位置情報、写真、動画、メモ、閲覧履歴だけではない。ユーザーに感づかれることなく、カメラとマイクロフォンも起動できる。ボタンを押すだけで、遠隔操作による完璧な個人監視が可能になる。
これは、顧客にとって危険な魅力を放ち、NSOには莫大な利益、2020年の売上げは2億5千万ドルをもたらした。
今やスマートフォンは、地図、郵便局、電話、メモ帳、カメラとして、秘密を打ち明けられる親しい友人として機能している。そのすべてが知らないうちに盗みとられているとしたら...。
ペガサスは政府機関としかライセンスを結ばず、相手の運用状況には決して関与しない。
NSOの最初の大口クライアントは、メキシコの国防省だった。メキシコ国防省は、NSOに1500万ドル以上を支払ったが、ペガサスは高価な欠陥品に終わった。2013年8月、ペガサスは、潤沢なオイルマネーを抱えるアラブ首長国連邦政府と契約した。
ペガサスのシステムはエンドユーザーを追跡不可能にする。メッセージは世界中のサーバーをいくつも経由して送られる。たとえば、まず中国へ、そして中国からオーストラリア、オーストラリアからアムステルダム、アムステルダムからパナマへ、そしてパナマを経由して、標的に届く。
2021年当時、世界中で2億人をこえるユーザーがいたトゥルーコーラーは国際的なデジタル電話帳に相当する。人権活動家。反体制派、ジャーナリストが自分のデバイスがスパイウェアに感染していないかどうかをみずから確かめられるツールを2014年にクラウディオが開発し、公開した。
イスラエルの若者から、17歳か18歳で選出され、イスラエル国防軍のサイバー諜報部隊に送り込まれる。この、精鋭中の精鋭は、ヘブライ語で、ロシュ・ガドル(大きな頭脳)と呼ばれる。彼らは、この部隊で兵役義務を果たす。戦闘の危険はない分野だ。
毎年1000人のロシュ・ガドルが兵役を終えて、民間部門に就職する。すぐに高額の給与が保証され、ハイテクの仕事につくことになる。イスラエルのサイバー・スペシャリストは、国家の誇りだ。
イスラエル国防軍は、国家精鋭の頭脳を8200部隊と呼ばれるエリート諜報部隊に投入してきた。この極秘部隊では、メンバーは、その名前を外部に話してはならず、自分の任務を家族にも漏らしてはいけない。8200部隊で、とりわけ重視されるのはイノベーション。アイデアは階級に優先する。
2013年から2017年に、イスラエル国内のサイバーセキュリティ企業の数は171社から420社に急増し、民間投資は6倍にはね上がり、8億ドルを突破した。
ペガサス・システムはスマートフォンに不正侵入して乗っ取り、端末の所有者を監視するために設計された。これは軍用グレードの攻撃型兵器である。
イスラエル軍は、テクノロジーを誰とも共有しない。だが、モサドは次善のテクノロジーを提供できた。それがペガサスだ。NSOの経営幹部は非常に秘密主義だ。
世界にはスパイウェアの民間企業が多数存在する。
サイバー監視業界は、実質的にガードレールなしの運営を続けている。
アップルは、そのスマートフォンの防衛対策のための研究開発部門の施設をイスラエルに建設した。しかし、イスラエル軍の8200部隊出身のNSOのエンジニアたちはアップルのスマートフォンの脆弱性を研究していた。
いやはや、スマートフォンの情報がスパイウェアによってつつ抜け、つまり私たちは丸裸の状態で生きているというわけです。怖いですね。ちなみに私はガラケー派です。スマートフォンを持っていませんが、何も不便は感じていません。
(2025年1月刊。3300円)