弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年7月26日

考古学者の多忙すぎる日常

人間


(霧山昴)
著者 角道 亮介・青山 和夫・大城 道則 、 出版 ポプラ社

 正確なフルタイトルは、「考古学者だけど、発掘が出来ません。多忙すぎる日常」というものです。ええっ、ど、どういうこと...。
 発掘調査よりも、研究室にこもって遺物を研究し、データを分析する時間のほうがはるかに長い。石器の使用痕を日本でこつこつと分析し、成果をスペイン語で書いていく。
 マヤ文明の交易、ものづくり、宗教儀礼と戦争という政治経済組織の一側面を9万点もの石器をこつこつと研究して実証明に検証し、英語、スペイン語そして日本語の論文に書き上げる。
 石器を分析する時間のほうが圧倒的に長い。石器の分析が忙しすぎて、発掘する時間がない。うひゃあ、現場で石器を掘り上げてからが大変なんですね...。
 「世界四大文明」というのは時代遅れの間違い。著者たちによって高校世界史の教科書から、時代遅れの「世界四大文明」という用語が消えた。世界四大文明とは、メソポタミア、中国、アンデスそしてマヤ文明。中学の世界史教科書では今も「大河のほとり」で発展したとしている。しかし、マヤ文明の諸都市は「大河のほとり」にはない。文明の誕生に必要なのは食料の確保であり、大河ではない。
マヤ文明には、鉄器、大型家畜、そして統一王朝がない。主要な利器は石器で、家畜は犬と七面鳥だけ。統一王朝もなく、ネットワーク型の文明。文字と暦(こよみ)、天文学を高度に発達させた。いやあ、そんなに違うものなんですね...。
考古学者になろうと考えている学生には、日本の発掘現場でアルバイトして経験を積むようにアドバイスしている。なーるほど、それは大事ですよね、きっと。
 エジプトのヒエログリフを読めたとしても、それだけでは就職先も仕事もない。ふむふむ、そうなんですか...。
発掘現場では蚊の大群に襲われる。トイレのときは悲惨。蚊の地獄。寝泊まりするのは、ジャングルの中のテント。コインランドリーも洗濯機もない。川の水で衣服を洗い、生乾きのまま服を着る。女性の調査員も含めて、プライバシーはまったくない。それを恥ずかしいと思っていては発掘調査はできない。野外調査のもう一つの大敵がマダニ。
 マラリアの予防薬は、欠かさず飲む必要がある。日本製の携帯用蚊取り器はあまり役に立たない。デング熱には予防薬はない。
 こんなに大変な苦労のともなう考古学ですが、ご本人たちは至って楽しそうです。やはり好きなことに一心不乱にうち込めるのがいいのですよね。
(2025年2月刊。1760円)

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