弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年7月23日

土地は誰のものか

社会


(霧山昴)
著者 五十嵐 敬喜 、 出版 岩波新書

 2014年、空き家等対策特別措置法が制定された。日本全体で空き家は2018年時点で849万戸あり、空き家率は13.6%。今後、空き家はますます増えて、まもなく1000万戸に達するとみられている。
 たしかに私の住む住宅団地にも空き家が何軒もあります。すぐ下の隣家も老夫婦が亡くなられて何年も空き家です。
空き家が倒壊する危険のある家屋でありながら解体されずに放置されているとき、所有者が承諾しないため強制取り壊しとなる行政代執行は、全国で年14件、所有者が不明のための略式代執行は年間40件ほど。つまり、ほとんど危険家屋も放置されているわけです。
私の住む街でも、前より減りましたが、いかにも危険だ、台風が来たら通行人等に危険を及ぼす心配がある空き家がまだまだあります。
 2018年、所有者不明土地の利用円滑化特別措置法が制定された。「所有者不明」とは、所有者がすぐには分からないのが3分の2、所有者は判明しても連絡がとれないのが3分の1.
 今、私は所有名義人の相続人が多数いて、うち1人はアメリカ在住、もう1人は生死不明(大正生まれなので、恐らく死亡していると思われるものの、戸籍上は存命だけど、その家族は不明)というケースをかかえて四苦八苦しています。
 このような「所有者不明の土地」は、410万ヘクタールあり、日本全体の10%を占める。これは九州と沖縄を足したほどの面積。これが2040年には720万ヘクタールに増えると予測されている。これは北海道と同じ面積。
 相続した土地の国庫帰属制度がある。2021年に制定された。ところが、とても要件が厳しく、厳重な審査を経なければいけないので、利用(申立)も認容も、とても少ない。
 重要施設周辺の利用状況調査と利用規制等に関する法律が2021年に制定されている。これは自衛隊の基地周辺に外国人や外国法人が土地購入するのを防ぐというもの。この法律については、立法事実(その必要性)の欠如、そして、構成要件があいまい(たとえば「機能を阻害する行為」というのはどんなものか不明)なので、日弁連は反対する会長声明を出した。
 マンションの老朽化が進んでいる。空洞化と老朽化が進むと、マンションは、いずれ廃墟になってしまう。
 タワーマンションだって、やがて老朽化したとき、莫大な修理・修繕費を住民が負担できず、速く逃げ出したものが勝ちということになることでしょう。
日本では、土地と建物がそれぞれ所有者の異なることは多い。なので、借地権で建物を所有するのは、あたりまえのこと。
 ところが、諸外国では、土地と建物とは原則として一体の不動産とみられている。
 ヨーロッパでは石造りの建物は、内装はしばしば変更されるが外観は何百年も継続している。そこには、土地と建物との分離という発想は生まれにくい。
 フランスに行ったとき、パリの石造りのプチホテル、そして、オンフルールという港町のホテルに泊まったとき、外装は何百年もたった石造りだけど、内装は近代的で便利なものでした。
日本では木造の建物は30年から50年で取りこわされる。築100年という建物には、滅多にお目にかからない。
 イギリスの「グリーンベルト」は、都市の膨張を防ぐために、都市の周辺を緑地帯で囲む計画があって、実施されている。日本では、ほとんど無規制のまま都市化の波が周辺の農地を覆い尽くしていますよね。
 また、日本では、地域の中に児童相談所や保育園・老健施設が建設される。そして、葬祭場が立地するとなると、猛烈な建設反対運動が起きる。これは、何より自分の所有する土地の「商品」としての価値が下がることに対する反発。
 そこで、著者は、「現代総有」という考えを提唱しています。簡単なことではありませんが、日本人も土地所有について、改めて考え直す必要があると痛感します。
それにしても、マンションという商品は、購入したとたんに「死」が始まるという指摘には、はっとさせられました。マンションの建て替えは、現行区分所有権のもとでは、ほとんど不可能なことを多くの人が気がついていない。それとも途中で売り逃げしたらいいとタカをくくっているのか...。でも、それも簡単に、誰でもやれることではないだろうに...。
 幸い、私は庭つきの家に住んで、ガーデニングも野菜づくりも楽しめていますが、考えさせられる新書でした。
(2022年2月刊。990円)

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