弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年8月30日

桃源

警察


(霧山昴)
著者 黒川 博行 、 出版 集英社

久しぶりに警察小説を読みました。もちろん殺人事件が起きます。それを警察官というより刑事2人が、デコボコ・コンビのようにして追いかけます。舞台は大阪から沖縄にまで飛んでいきます。
話のはじめは逃亡です。頼母子講の座元が集まった講金を持ち逃げしたというのです。
私が弁護士になって数年目のことでした。頼母子講って、古臭い名前から江戸時代の話と思い込んでいたのです。ところが、今も沖縄をはじめ全国でやられているようですね。無尽(むじん)といったり、模合(もあい)といったりもします。
筑後地方では講の世話人が、どこまで責任をもつべきか裁判で何件も争われました。盛主(座元)が初めから破綻させるつもりで始めたら詐欺か横領になりますが、相互銀行法違反で警察に検挙され、実刑になった女性が何人もいました。
座元が講で集まったお金を持って逃亡したとき、横領罪が成立するのは当然ですが、この本でも被害者の代理人弁護士の作成した告訴状では詐欺罪もあげています。要するに金策に困っていて講を始めたのは、当初から講金をだましとるつもりだったとしているのです。この点の立証は簡単そうでいて、実は案外むずかしいと私は考えています。
2人の刑事のうち、1人は大食漢で、脚本家を目ざしていたほどの映画マニアでもあります。刑事としての犯罪訴捜査より沖縄観光を優先させようとしつつ、実は捜査のほうも口でいうほど手抜きはしない愛すべきキャラクターとして設定されています。そんなわけで、大阪や沖縄のおいしい料理が次から次に紹介されるのも読ませる工夫になっています。
そして、もう1人の刑事は独身で女子大生と交際中。肉体関係はあっても、泊まりはなしという決まりがある。ということで、夜の世界の話もチラホラ出てくるのにも惹かれるのです。
沖縄を舞台とする話のほうは、偽りのM資金に似た話です。沈船ビジネス。沈没船を発見したらなんと550億円もの大金が入るので、投資した人への見返りもすごい、なんていう夢のような話で素人だましをするのです。
もうかる話のネタは、尽きないものです。それと知って参入してくる連中は根っからの詐欺師と知能犯のヤクザ。もちろん、失敗したら生命をとられる危険があります。
てなわけで、556頁もある大部な本をコロナ禍の休日に電車と喫茶店で読了しました。
まあ、悪は栄える、というのではないのが最後の救いでした。
(2019年11月刊。2000円+税)

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