弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

日本史(平安)

2021年5月10日

源氏物語の楽しみかた


(霧山昴)
著者 林 望 、 出版 祥伝社新書

源氏物語を通読したことはありません。現代語訳の通読を何回か試みましたが、いつもあえなく挫折してしまいました。どうしても平安貴族の心の世界に溶け込めなかったのです。
われらがリンボー先生は、現代語訳を刊行するほど「源氏物語」に通じていますので、この本の読みどころをフツーの一般読者に分かりやすく教えてくれます。さすがです。私と同じ団塊世代ですが、偉い人がいたものです。感服することしきり、というほかありません。
「源氏物語」は、決して、いま言う意味でのベストセラーではなかった。どの時代にも、この長さで難解な物語を自由に読める人など、限りなくゼロに近かった。ごく限られた貴族社会の人たち、すぐれた知識階級の人出が、細々と読んでいたに過ぎない。読もうと思えば努力次第で誰でも読解できるようになったのは、江戸時代前期に注釈本が出たあとのこと。なーるほど、そうなんですよね。ちゃんと読んでいない私は、これを知って、ちょっぴり安心しました。
しかし、それでも、「源氏物語」は、常に文学の王道として、千年にあまる年月を堂々と生きのびてきた。なぜか...。
この物語は、雅(みや)びだの、優雅だの、そんな生易しい観念で片づくようなものではない。そこには、いかに生々しい、いかに切実な、いかに矛盾にみちた人間世界の懊悩(おうのう)がリアルに描かれているのだ...。男と女がいる、その男女関係は、根本にある「人を愛する切実な気持ち」などは、時代や身分を超越して不易だ。うむむ、そうなんですか...。
「色好み」というのは、現代では非難されるべきもの。しかし、平安時代では違った。「色好み」の男性ほど、女に好かれる。いや、女に好かれなければ、色好みにはなれない...。
そして、色好みには、「まめ」が必要。恋のためなら、千里の道を遠しとせず、たとえ火の中、水の底、いかなる困難もいとわないというエロス的エネルギー。これこそが、色好みの男にもっともあらまほしい姿である。うむむ、これは難しい...、手に余ります。
光源氏は、「許さぬ」と決めた相手には、どこまでも冷酷にしかし表面上は親切に、押しつぶしていく。源氏という男の恐ろしさが発揮されていく。うひゃあ、そ、そうだったんですか...。
光源氏の内面には、真面目と不真面目が同居し、親切で冷酷であり、傲慢なのに謙遜らしい。源氏は、どこまでも二面性のある、いや非常に多面的な相貌をもった存在として描かれている。
ううむ、そういう話として読めるのですね...。そうなると、作者の人物創造は、かなり奥深いものがあるわけですが、いったい、パソコンもない時代に、どうやって、それを創造できたのか、いよいよ不可思議な思いにかられてしまいます。
(2020年12月刊。税込1100円)

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