弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年11月15日

封印される不平等

著者:橘木俊詔、出版社:東洋経済新報社
 日本の平等神話が崩壊していることを指摘した本です。
 数億円もする高級マンションがすぐ完成になる一方、駅や公園にはホームレスがあふれています。ところが、もっと競争原理を導入して、なんでも自由に競争させればいいという主張が政府や財界から声高にとなえられています。
 しかし、競争はせいぜい社会全体の2割ほどの人にしか開かれておらず、残る8割は、はじめから競争にアクセスするチャンスが奪われている。8割の人の意欲を無視してしまうということの非効率を忘れてはいけない。
 自由競争を主張している人々は、実は自分が恵まれた環境のなかで上にのしあがってきたのに、それを認めたがらない。それを認めるだけの強さをもっていない。その辛さに耐える強さを失っている。
 政府は、最高税率を70%から37%へと劇的に下げた。再分配政策を通じて課税後の不平等に貢献している。
 アメリカは自由競争社会だというのは真実に反する思いこみだ。本当はコネ社会であり、学歴社会だ。どの大学を出たかで、ビジネス・チャンスがまったく違う。
 かつての日本は努力すればナントカなる社会だった。しかし、最近では努力しても仕方のない社会になりつつある。子どもに勉強しようという意欲をもたせないような世代間の連鎖が冷酷に社会に存在している。
 親は教育・職業ともに上層階級にあり、所得も高かったことを忘れ、あたかも自分の成功は努力で競争にうち勝ったことによってもたらされたと思いこんでいる。親子間で不平等が連鎖していることに気がつかないか、見たくない、あるいはさわりたくないという気持ちがある。本人の成功は実は家庭環境が優れていたからこそ、達成された側面があるのに、あえてそのことに目をつぶり、世の中には機会の不平等は存在しないと考えているひとがけっこう多い。
 私にも心あたりのある指摘です。本当に恵まれた環境にあったと思います。だから、私は、環境の平等をもっと大切にすべきだと思うのです。不平等は不公正につながり、犯罪多発につながっていきます。アメリカのように怖い社会になったらおしまいです。決してアメリカをモデルにしてはいけません。

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