弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年4月27日

対米従属の構造

社会


(霧山昴)
著者 古関 彰一 、 出版 みすず書房

読みすすめるほどに怒りが湧き立ってくる本です。もちろん、著者に対して、ではありません。日本の為政者と、それを無関心と棄権によって許している多くの国民に対して、です。
有名なアメリカの歴史家ジョン・ダウアーは、日本をアメリカの「属国」とみていた。ワシントンの基本的な戦略および外交政策に反対しないという意味で日本政府は従属的性格を有する。
戦後のアメリカは、植民地主義帝国ではなく、間接支配を特徴とした。親米政権とそれを担うエリート層を大切にする。
日本の領土は、日本政府を通じて、その全土がアメリカの「使用」の対象になっている。
ところが、日本人の多くは、「日本は従属国家だ」と正面切って言われると、抵抗を感じてしまう。そうなんですよね。そして、日頃ブツクサ言うくせに、投票所に足を運ぼうとはしません。
日米安保条約を日本国民の圧倒的多数が支持している。しかし、仮に日米安保がなくなったら、日本はどうなるのだろうと誰も考えない。そもそも、「仮に...」という発想がない。
非常時において、司令官は日本人ではなく、アメリカ人がなる。アメリカ人の司令官が日本軍を指揮するという本質は変わっていない。
朝鮮半島有事の際には、朝鮮戦線での米軍の指揮は米空軍が、日本防衛の指揮は在日アメリカ軍が指揮することになっている。
PKOについて、日本政府は「平和維持活動」と訳している。しかし、本当は「平和維持作戦」とすべきものだ。
平成の30年間は、日本にとって「平成は有事の時代」であった。これは、有事法が雨後の筍(たけのこ)のように誕生した1990年代以降の日本の状況である。
「平成」とは、新自由主義改革のなかで、「公社」の民営化、選挙制度改革、地方自治体の合併、司法制度改革(裁判員裁判、法科大学院)などの大改革がすすんだ時代だ。
そして、1989年に世界トップの座にあった日本の国際競争力は、新自由主義改革と有事法制下の軍事力の強化によって、30年後には30位へと転落した(2019年)。
ここでいう「国際競争力」とは、失業率、社会的結束度合い、腐敗、GDP、教育支出などの指標から算出した結果だ。したがって、平成とは、あらゆる面で「失われた30年」でもあった。
陸上自衛隊には、5方面隊があり、「分割」されていた。ところが、2018年3月に5方面隊すべてを統合する「陸上総隊」が新設され、防衛大臣の直轄となった。そして、この陸上総隊のなかに「日米共同部」が設けられた。それはアメリカ軍のキャンプ座間のなかにある。日米共同部とは対米従属を絵に描いたような組織だ。究極の「従属」形態の一つだ。
ドイツ・イタリアは施設整備費、従業員労務費、光熱水費のすべてをアメリカ軍に負担させている。韓国は光熱水費のみをアメリカ軍に負担させている。ところが、日本は、そのすべてを自らが負担し、アメリカ軍には負担させていない。
そこで、アメリカ軍の駐留経費を負担している額は、ドイツ16億ドル、韓国8億ドル、イタリア4億ドルに対して、日本は44億ドルと突出して高い。日本におけるアメリカ軍の駐留経費の75%は日本が負担している。
教育・福祉予算については、いえ司法予算についても、ひたすら削減を強いている日本政府は、アメリカ軍に対しては、どこまでもゲタの雪で、文句ひとつ言おうともしません。情けないかぎりです。
日本は、他国の追随を許さない、自発的にして傑出した対米従属国家というほかない。ホント、嫌になりますよね...。
日本人の核への無知、無頓着、無関心という指摘がありますが、日本の現実についても同じように言えますよね、残念ながら...。みなさん、ぜひ投票所に足を運んで、きちんと意思表示しましょう。私からの切なるお願いです。
(2020年12月刊。税込3960円)

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