弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年12月20日

黒い雪玉

中国


(霧山昴)
著者 加藤 三由紀 、 出版 中国文庫

 日本との戦争を描く中国語圏作品集です。読むと、戦前の中国で、日本人は本当にひどいことをしたことがよく分かります。
 加害者だった日本人は、帰国してから、加害の事実をほとんど語ることがありませんでした。日本では、ほとんどの人が良き夫・良き父そして良き隣人でしたから、まさか中国で悪虐非道をし尽くしたなんて、誰も思わなかったのです。こんなに善良な日本人が、非道いことをするはずがない...。でも、被害者のほうは忘れることができません。当然のことです。日本の憲兵に連れていかれて唐辛子水を流しこまれるよりは...。
 しょっちゅう遊撃隊が列車を急襲し、日本人の奴らを殺していた。線路から1メートルほどのところに、たくさんの日本軍将校の殉職記念碑があった。日本軍の将校が死んだ仲間の記念碑を見たとたん、乗客に恨みをぶつけ、口実を設けて中国人をやっつけ、傷つけた。日本軍将校は違法な商品を検出したとの理由で列車を強制的に停車させた。
 日本人と傀儡(カイライ)軍が村に来て、名指しで村人を捕まえ、本人がいなければ、その家を焼き払った。村人には、とうに知らせてあったので、損失は小さかった。
 ひっきりなしに変装しては県城へ行き、そのたびに情報を持ち帰り、村人は、そのたびに災難を逃れた。八路軍も情報を速やかに得て、的確に伏撃した。
 「ねえ、日本人はどうして中国へ来るのかな。来なければいいのに。来るからやっつけなければいけない。来なければ、手間がかからないのにね」
 これは10歳の中国人の男の子のコトバです。そうなんです。日本兵は中国では災厄をもたらす悪の権化でしかありませんでした。
 編者(日本人女性)が1986年5月に山西省の山中の村に行くと、たちまち村の男に囲まれ、必死の表情で訴えられた。きつい方言のため編者は聞きとれず、案内の人が囲みから外へ出してくれた。残って村人の話を聞いた人によると、村人たちは日本兵に父や兄と斬殺されたことを訴えたのに加えて、その後の苦難な日々を訴えたとのこと。日本兵による略奪と虐殺によって飢餓に襲われ、村の人口が回復するのに15年かかったというのです。なにしろ、3日間のうちに300人もの村人が日本兵によって殺されたのでした...。
 この本の編者あとがきに紹介されている話です。日本人は、過去に先人がした事実にきちんと向きあう必要があることを改めて痛切に感じました。
(2022年8月刊。税込4180円)

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