弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年12月18日

『男はつらいよ』、もう一つのルーツ

人間


(霧山昴)
著者 吉村 英夫 、 出版 大月書店

 50本もの映画シリーズ『男はつらいよ』のルーツに、実はフランス映画のマルセル・パニョルの戯曲『ファニー』があったという本です。著者は、山田洋次監督の映画すべてを研究している人です。私にとって、マルセル・パニョルは、映画『愛と宿命の泉』とか、南フランスを舞台とする映画(名前をド忘れしました)の原作者という存在なのですが...。
 山田洋次監督の次の言葉には共感を覚えます。
 「楽観主義が物事を動かしていくこともある。絶望するのは簡単。むしろ楽観するのは大変なこと。でも、楽観しなければ人間は生きていけない。なんとかなるさという思いがなければ困難な状況を変えていく努力もできない」
 映画『男はつらいよ』は、笑って泣いて楽しさを堪能する映画。
 私にとって、『男はつらいよ』は、大学生のときからずっと見続けてきた身近な映画です。ところが、若い人たちと話すと、実はみたことがないという人も少なくないのです。唖然とします。どうして、こんないい映画をみないのかな・・・と、寂しい思いがします。
 今や世界の映画史にも残る大監督というべき山田洋次監督にも、実は、気持ちが折れそうになる若い修行時代があったというのです。まあ、そういう時期もあったのでしょうね、とても想像できませんが...。
 山田洋次は、民衆の生活を誠実に暖かく描く、民衆派でありたいとする心情(信条)だ。
 『男はつらいよ』で描かれる放浪と定着とは、盾の裏表であり、合わせて一つの関係。定着することを基本とすることと、何かを求めて放浪することという相反する力、あるいは両者をともに求める気持ちは、人間の中に内在する本能なのだろう。両者には互いに自分にはないものがあって、それぞれに優位的、同時に劣位的側面をもつがゆえに、両者は憧れあう関係にあることができるのではないか。
 山田洋次は次のようにも言っている。
 「悲しいことを笑いながら語るのは、とても困難なこと。でも、この住み辛い世の中にあっては、笑い話の形を借りてしか伝えられない真実というものがある」
 いやあ、世の中の真実、そして社会の奥深くにうごめいている生きようとする人々の力、そんな気持ちを引き出して映像にするなんて、実にすばらしいことだと私は思います。
 最後に、フランス人のクロード・ルブランという人が、フランス語で「山田洋次から見た日本」という本を刊行したそうです。フランス語を長く勉強している私ですが、原書ではなく、日本語で読みたいです。また、現在、パリにある「日本文化会館」では『男はつらいよ』全50作が来年(2023年)まで1年半かけ上映中とのこと。いやあ、これまた、すごいことですよね...。
(2022年10月刊。税込2860円)

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