弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年10月 6日

まんがでわかる日米地位協定

社会


(霧山昴)
著者 平良 隆久、藤澤 勇希 、 出版 小学館

この本を読みすすめるほどに腹が立ち、怒りに燃え、今風にいうと、チョームカついてきます。いえ、作者もマンガも決して悪いのではありません。書かれていることが、あまりにひどくて、涙が出てくるのです。それも怒りの涙です。日本って、ホント、アメリカの従属国でしかなくて、本当に自立していない、まだ独立していないんだな、つくづくそう思わせます。
ドイツやイタリアで出来ていることが、お隣の韓国でやられていることが、日本では出来ていませんし、いつだってペコペコと卑屈にアメリカのご機嫌うかがいばかりしているのですから、ホント嫌になってしまいます。
しかも、マンガ仕立てで、高校生だって分かるレベルで書いてあります。おっと、これは今どきの高校生に対して失礼な言辞でしたね。スミマセン。よほど日本人の大人のほうが分かっていない、分かろうとしていない、盲目のままでいいなんて馬鹿な思考にしがみついているんですよね。
日本の政治家やマスコミは、北朝鮮と中国との緊張感を煽って、勝手にアメリカ軍の力を信じ頼りにしているが、アメリカ軍のほうは、そんなつもりはまったくない。
アメリカ兵は日本国内の高速道路の通行料をほとんど支払っていない。レンタカーを利用して日本国内の観光旅行に出かけているのに、アメリカ軍の通行証が発行されているかぎり、それは軍用車両として免除されることになっている。そして、その車で交通事故を起こしても、「公務中」となって日本の警察は手が出せない。それが日米地位協定だ。
首都東京の上には巨大なアメリカ管制下の空域あるため、JALもANAも、日本の航空会社の飛ばす民間飛行機は富士山の上空は飛行できないので、ぐるっと大まわりをさせられる。無駄なことだし、使用するジェット燃料を浪費するし、危険性も増す。これがアメリカ軍のラプコンだ。
アメリカ兵が刑事事件を起こしたとき、日本の警察はすぐには逮捕できない。そして、たとえ逮捕できたとしても、実際に刑事裁判で有罪になるとは限らない。というか、その多くが無罪・放免になっている。
アメリカ軍の飛行機が墜落したとき、沖縄県警は動けなかったし、動かなかった。というか、アメリカ軍によって構外にはじき出されて、その様子をみるだけにした。人体にきわめて有害な泡消火剤が基地の外に出たとき、日本政府はアメリカ軍の基地に立入調査することすら出来なかった。
ドイツでもイタリアでも、そんなことはない。イタリアではアメリカ軍の基地にイタリア人将校が常駐している。
韓国は1994年に、ついに平時の作戦統制権を取り戻すことに成功した。そして、平時のデフコン4からデフコン3への引き上げるには、現場の士官が建議したあと、陸海軍の三軍のトップが承認し、さらにアメリカと韓国の大統領の承認も必要となる。
要するにデフコンが3から4に代わることにはとてつもないエネルギーを要し、ほとんどありえない状況になっていて、平常時であるかぎり、韓国軍の指揮権は韓国軍が有する。
今どき、なんで日本全国にアメリカが我がもの顔でたくさんの基地をもち、首都の上空を占有しているのが、不思議でなりません。沖縄の辺野古新基地づくりだって、アメリカの押しつけであり、日本のゼネコンを喜ばせるだけなのに、菅新首相をマスコミがもてはやし、コロナ禍のなかでも基地建設を強引にすすめるなんて、許せません。
この本はひらがなにすべきところを旧来の漢字を多用するという読みにくさはありますが、著者の熱意と分かりやすい政治マンガによって、日米地位協定の問題点が浮きぼりにされています。この改定は日本政府の当面する主要課題の一つだと、つくづく思ったことでした。
(2020年8月刊。1700円+税)

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