弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年6月 6日

塀の中のおばあさん

司法


(霧山昴)
著者 猪熊 律子 、 出版 角川 新書

 日本全国に女性刑務所は11。近くは佐賀県鳥栖市に麓(ふもと)刑務所がある。
 2020年の新しい受刑者は1万6620人。男性1万4850人、女性1770人。5年連続で戦後最少を更新。戦後、最多は7万727人(1948年)。平成時代の最多は3万3032人(2006年)。男性は著しく減少したが、女性は高止まりの傾向にある。
 入所受刑者全体の中で女性は10.6%、2020年に初めて10%を超えた。1946年には2.5%、1989年には4.2%。65歳以上の高齢女性は、1989年の1.9%が、今や19%と10倍に増えた。男性は65歳以上は12.2%。女性全体で最多年齢は40代で26.1%。
 女性受刑者の犯罪は、窃盗46.7%、覚せい剤取締法違反が35.7%。
 窃盗は、「万引き」が多い。刑務所は今や福祉施設化している。
 受刑のうち暴力団関係者は、30年前の1990年には4人に1人(24.7%)だったが、今では25人に1人(4.2%)。
 2020年に検察庁が受理した80万人のうち起訴されたのは25万人で、裁判所で有罪判決を受けたのは22万人。そのうち刑務所に入ったのは1万7千人。
刑務所は朝6時半に起床し、午後9時に消灯。刑務作業は、平日のみで、土日は自室で過ごす。部屋にはテレビがある。しかし、24時間、監視され、自由もプライバシーもない。
 管理され続けると、自分の頭で考えるのを、やめてしまう。
 「刑務所にいるほうが気持ちがすごく楽」
 「社会にいたら独りでポツンとしている。刑務所だと刑務官から声をかけてもらえる」
 繰り返し刑務所に来る受刑者が多い。負の回転扉という。刑を終えて社会復帰しようにも戻るべき家がない、出迎えてくれる人もいないという高齢者が多い。
 名古屋にある笠松刑務所は官民協働型の刑務所。370人の入所者が5つの寮に分かれて暮らす。65歳以上の割合は2割、最高齢は87歳。
 炊事係の確保に苦労している。体力を要する仕事に耐えられない収容者が多いからだ。受刑者のなかに認知症の疑いのある人が今や14%にまで増えている。
 刑務所での生活費は被収容者あたり1日2200円、年間80万円、このほか、職員の人件費や施設運営費まで含めると、収容者1人あたり年間450万円になる。
 人口10万人あたりの刑務所収容者は、アメリカの505人に対して、日本は36人。OECDのうち最も少ない。
起訴猶予、執行猶予制度のおかげ。問題解決能力が低く、自分を大切にする自尊感情も低い。一人の人間として尊重された経験が少ないから、自分も他人に対してどう接してよいか分からず、どうされたいかも分からない。高齢者に冷たい日本社会が刑務所に閉じ込めているのですね...。状況は深刻です。
(2023年3月刊。940円+税)

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