弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年8月 2日

自衛隊海外派遣、隠された「戦地」の現実

社会


(霧山昴)
著者 布施 祐仁 、 出版 集英社新書

自衛隊を国連の平和維持活動(PKO)のために派遣する法律(PKO法)が制定されたのは1992年6月のこと。それから30年たった。これまで、海外15のミッションに自衛隊は派遣され、参加した自衛隊員は1万ン2500人(のべ人員)。今や、その一人は自民党の国会議員になっている。世論は、すっかり受け入れ、定着しているかのように見える。しかし、果たして、その実態を十分に知ったうえで、日本国民は受けいれているのだろうか...。
実際のところ、日本政府は日本国民から批判されるのを恐れ、PKO法にもとづく自衛隊員派遣の現場で起きたことをずっと隠してきた。
政府文書は黒塗りされたものしか公表されてこなかった。
南スーダンに派遣された自衛隊員が書いていた日報は「既に廃棄した」とあからさまな嘘を言っていたが、実は存在していて、あまりにも生々しい現実があったことが国民の目から隠されていたことが発覚した。
イラクのサマーワに自衛隊が派遣されたとき、実はひそかに10個の棺も基地内に運び込んでいた。自衛隊員の戦死者が10人近く出ることを当局は覚悟していたのだ。
自衛隊がサマーワにいた2年半のあいだに、周辺地域には、総額2億ドル超が投下された。要するに、日本政府は安全をお金で買っていたのです。
サマーワでは幸いにして、一人の戦死者も出しませんでした。ところが、なんと、日本に帰国してから、陸上自衛隊で22人、航空自衛隊で8人が自殺しているのです。それほどサマーワでの体験は過酷でした。このように、戦地に出かけて滞在するというのは強烈なストレスをもたらすものなんです。それを知らずして、戦争映画のDVDを自宅のテレビで見ているような感覚でとらえて議論してはいけないと思います。広く読まれるべき、貴重な新書です。
(2022年4月刊。税込1034円)

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