弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年7月18日

旅は終わらない

人間


(霧山昴)
著者 芦原 伸 、 出版 毎日新聞出版

旅は「学び」である。まことにそのとおりです。とはいっても、私はコロナ禍のせいで、2年間も福岡県外に出ることがありませんでした。画期的なことです。もちろん、いい意味で言っているのではありません。本当なら、長野の「無言館」、「ちひろ美術館」に行くはずでしたし、北海道の利尻・礼文島にも行きたいと思っていました。
私の自慢は、日本全国、行っていない県はありませんし、各県どこにも知人の弁護士がいます。日弁連で長く活動してきたことによります。でも、まだ、屋久島には行っていませんし、八丈島にも行っていません。
この本には、日本航空(JAL)で不当な扱いをされた小倉寛太郎さんが登場します。私も一度だけ、大阪の石川元也弁護士の大学時代の友人だということで紹介され、日弁連会館で挨拶したことがあります。
小倉さんは、山崎豊子の『沈まぬ太陽』の主人公、恩地元のモデルになった人で、JALのナイロビ支店長もつとめました。要するに、左遷されたのです。ところが、小倉さんのすごいのは、左遷された先のケニアで大活躍し、またたくまに超有名人になったのでした。初めは、象やライオンをハンティングし、次はカメラをかまえて野生動物保護派に転身したのです。私も小倉さんのすばらしい写真集を何冊かもっています。中曽根政権のとき、JALの会長室部長に復帰しますが、退職後は、またケニアに戻って野生動物研究家になったとのこと。すごい人生です。
この本には、ブルートレイン「みずほ」も登場します。熊本までの17時間もかかる寝台特急です。私は何度も利用しました。食堂車は都ホテルの経営。コック3人、ウエイトレス4人の7人のクルーズ。大変な混雑ぶりだったとのこと。貧乏学生の私は食堂車も利用したとは思いますが、残念ながらあまり記憶がありません。私の大学生のころは、まだ、缶ビールなんて便利なものはなかったように思います。
博多までの特急「あさかぜ」があったことは知っていますが、私は利用したことはないと思います。全盛期、「あさかぜ」は1日3往復したとのこと。信じられません。速さは新幹線、旅情は「あさかぜ」と言われた。松本清張の『点と線』にも「あさかぜ」が登場する。
今、福岡には「あさかぜ」法律事務所があります。
国鉄(JR)の時刻表は、月刊100万部もの発行だったが、今や激減し、4万から5万部ほど。みんなネットですませている。そうなんですよね。アナログ派の私は大いに困っています。
旅情を語る原稿で禁句は、「感動した」、「美しい」、「おいしかった」。どう感動したのか、何が美しいのか、どのようにおいしかったのか、その詳細(ディテール)を言葉にしてあらわすのが紀行文。そこに、独自の視点をもつ、作者の個性と感性、そして教養が求められる。
文章力で読者に感動を体験させないと、プロの書いた原稿とは言えない。干田夏光は、「モノ書きは、読者を泣かさなければいけないよ」と言った。
モノカキを自称する私ですが、まだまだそこまで至っていません。ところが、私の書いた「アイちゃんと前川喜平さん」という文章を読んで、泣けてきたという人がいて、いや、もう少しがんばれば、そこまでいけるかも...、と思うようになりました。人生、何ごとも精進するしかありませんからね...。
(2022年2月刊。税込2090円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー