弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年5月16日

ヴォロディミル・ゼレンスキー

ヨーロッパ


(霧山昴)
著者 ギャラガー・フェンウィック 、 出版 作品社

 ご存知、ウクライナの大統領についての「本格評伝」です。サブタイトルは「喜劇役者から司令官になった男」。
 ウクライナは面積60万平方キロメートル、人口4400万人。人口は韓国より少ないのですね。でも、現在どれくらいの人が本国に残っているのでしょうか。若い男性は出国禁止になっているようですよね。それこそ総動員体制なのでしょう。
 ロシアは面積1700万平方キロメートルですから、文字どおりケタ違いに大きいです。人口は1億4500万人。日本の人口は1億2千万人ほどですよね。インドや中国と違ってロシアの人口は10億人とか、そんなに多くはないのですね...。
 ゼレンスキーの父親はサイバネティックスが専門。情報工学の教授で、母親はエンジニア。ユダヤ人の両親は、労働者階級のなかで地位を築いた知識人。
 ゼレンスキーは、大学の法学部に入学して卒業した。しかし、学生のころから仲間とともに劇団活動に励んでいて、座長となり、コントの台本執筆と演出、そして自らも出演した。
 友人はゼレンスキーについて、「彼のずば抜けた点は、人の心の動きを直観的に読みとる鋭さにある。人の心を正確に理解し、その行動の背後にあるロジックをやすやすと把握する」と語る。
 ゼレンスキーはオリガルヒ(ソ連崩壊後に生まれた新興の大富豪)の一人であるコロモイスキーと深い関係にある。コロモイスキーもユダヤ人。オリガルヒ同士は、みな顔見知り。ゼレンスキーは、コロモイスキーから4000万ドルの送金を受領したのではないかという疑惑があった。さらに、ゼレンスキーは、イタリアにも別荘を隠しもっていると報道された。ゼレンスキーは自らがユダヤ人であることを隠していないが、とりたてて強調してもいない。
 ところが、プーチンがウクライナ侵攻にあたって、ナチズムから国民を守るためと宣言したことから、ユダヤ人のゼレンスキーをナチスであるかのように決めつけることの当否が議論になった。
 ソ連時代のユダヤ人は無神論者を自称し、ユダヤ教徒であることを必死で隠した。
 現在のゼレンスキーは、ユダヤ人の血を引きながら、なおかつ抵抗するウクライナの顔であり、戦う愛国者の化身だ。
 ウクライナの議会で極右政党は450議席のうち1議席のみでしかない。
 ゼレンスキーが大統領になる前、テレビ局の連続ドラマでゼレンスキーは主役となって腐敗した政治に鋭く切り込んでいく主役を演じた。視聴者は2015年12月、史上最高の2000万人を記録した。ゼレンスキーは、2018年12月まで、政界進出の野心は一切ないと否定し続けた。ところが、12月末に突如として大統領選への出馬を表明した。
ゼレンスキーは、政治集会を開催せず、記者会見も開かず、ジャーナリストのインタビューに応じることもなく、他の候補者との討論会にも参加せず、巡業を続けた。ゼレンスキーへの支持はうなぎのぼりに上昇し、2019年1月、ついにトップを占めた。2019年4月、ゼレンスキーは73%の得票率で大統領に当選した。
 ドラマのおかげで、国民はゼレンスキーを自分たちに寄り添ってくれる人物だとみなした。エリート階層に属しているのは明らかなのに、国民はゼレンスキーを「ブルーカラー出身の富豪」とみなした。30歳未満の有権者の80%がゼレンスキーに投票した、40歳未満だと、70%前後だった。ゼレンスキーは言った。
 「私たちは腐敗に打ち勝つとウクライナ社会に約束した。だが、今のところ、取り組みは着手すらされていない」
 すでに衰弱していたウクライナ経済は、コロナウイルスの蔓延で深刻な危機に頻していた。
 もはやゼレンスキーは、自分に尽くしてくれた億万長者コロモイスキーと疎遠になるほかなかった。ロシア侵攻後の今、ゼレンスキーの支持率は80%から90%、ウクライナ軍は全国民の信頼を取り戻した。
 といっても報道によると、ウクライナ軍の汚職・腐敗はなくなってはいないようですね。国防大臣も更送されましたし...。ゼレンスキー大統領とは何者かを知ることのできる本です。
(2022年12月刊。1800円+税)

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