弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年1月 3日

浅井さん、まだマンガ描いてる?

司法

(霧山昴)
著者 浅井俊雄さん追悼集編集委員会 、 出版 左同

 心優しき異彩の弁護士・浅井俊雄氏の追悼集です。2021年7月に亡くなった札幌弁護士会の浅井俊雄弁護士(修習37期)に対する心温まる追文がたくさん寄せられています。なにより浅井弁護士のホンワカタッチのマンガが秀逸です。弁護士会主宰の集会の告知など、たくさんのポスターに、内容ピッタシのマンガが描かれています。国家秘密法の制定に弁護士会が反対したときの「おぢいちゃんと国家秘密法」という4頁ものストーリーマンガは、本当によく出来ていて驚嘆します。
 中央大学で漫画研究会に所属し、浅井さんは研鑚を積んだようです。ところが、小・中・高以来、マンガを描いていたのかと思うと、さにあらず。大学まで一度もマンガを描いたことがないから、必要な道具は分からないし、道具の使い方も知らなかったというのです。ところが、描き方を教わると、なんとなんと、1ヶ月後に50頁ものマンガを描いて持参したというのです。これはすごーい。どうしても描いておきたい物語(ストーリー)があると浅井さんは言ったとのこと。果たして、どんなストーリーだったのでしょうか・・・。
 浅井さんは漫画研究会でマンガを描きつつ、司法試験の勉強にも集中して取り組み、卒業した翌年に、合格しています。そして、さらにすごいのは、合格したあと、「週刊少年チャンピオン」新人まんが賞に応募して、最終選考に残ったというのです。審査員の一人は、かの天才マンガ家の手塚治虫でした。プロのマンガ家になれなかった浅井さんは、その後はおとなしく弁護士の道に入ります。イソ弁もして、独立しますが、じん肺訴訟弁護団に誘われて活動します。弁護団の議論がとても性にあったようです。
 浅井さんと同期の2人とあわせた3人は「奴隷階級」と言われて、全般的にこきつかわれたそうです。でも、楽しげに浅井さんは仕事をこなしました。浅井さん本人が描いた「ある日の弁護団会議」というマンガがあります。浅井さんたち3人の弁護士は、とびきり優秀なので、どんな仕事も安心して任せられたのです。
 浅井さんは、大量で複雑な情報や理屈をとてもシンプルにとらえ、他人(ひと)にわかりやすく伝えるという能力にすぐれていました。それはマンガに如実にあらわれていると思います。実際に起きた長距離トラック運転手の過労死事件をドラマ化して市民集会で上映したとき、浅井さんは脚本と監督を担当しました。すごい、すごい・・・。
 浅井さんは映画も好きで、「僕の好きな映画2本」として、「ローマの休日」と「七人の侍」をあげています。私とまったく同じ好みなのに驚きました。
 最後に、浅井さんは、夕張炭鉱にもぐった経験があり、それを詳しくレポートしています。三池炭鉱が閉山する前に、私も有明海の地底深くに一度だけもぐったことがあります。浅井さんたちは「じん肺訴訟」の検証として裁判官たちと一緒に坑内にもぐったのです。このときの炭鉱の職員とのやりとりはとても興味深いです。
浅井さんは60歳で難病(病名は書かれていません)のために、やむなく弁護士の仕事をやめ、63歳で亡くなりました。私は面識はまったくありませんが、この追悼集を読んで本当に惜しい人を亡くしたと思ったことでした。
 同期(26期)の岩本勝彦弁護士から贈呈してもらいました。いい本を、どうもありがとうございます。
(2022年12月刊。非売品)

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