弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年12月 8日

日清・日露戦史の真実

日本史(明治)


(霧山昴)
著者 渡辺 延志 、 出版 筑摩選書

 一般に公刊されている日清戦争そして日露戦争の戦史は、実は本当の戦争の推移は書かれていない、つまり、都合の悪いことは書かないことになっていることを明らかにした本です。どうしてそれが判明したかというと、公刊戦史の前にあった草案が掘りおこされ、両者を見くらべることが出来たからです。
 公刊戦史は、失敗した軍事行動は書かない、成果をあげていない行動はつとめて省略するという編集方針によって書かれている。そして、日本軍の準備不足を暴露するようなことも書いてはいけないし、国際法に違反するようなことも書かないほうがよい、とされました。
 日清戦争のとき、清軍(中国軍)の将軍たちの戦意は乏しかった。平壌まではどうにか日本軍はたどり着いたが、兵糧は限界に達していて、もはや戦えなくなるのも目前だった。
 清軍(中国軍)は平壌に立てこもっていたが、ついに白旗を揚げた。そして、平壌から逃げだした。日本軍は白旗をあげた清軍に対して捕虜にするつもりだった。清軍のほうは、そんな常識を知らないので、白旗を揚げたあとは中国のほうへ引き揚げるつもりだった。決して日本軍をだましたりオチョクルつもりではなかった。あくまで任意撤退するつもりで、白旗をあげたのだった。
 清軍は、戦意に乏しく、情報収集の能力も乏しかった。そして前線の戦地からの威勢のいい報告は敵(日本)軍の兵力を大幅に過大な数量としていた。
日本軍は乏しい食糧を持たず、現地で「敵」から奪ってまかなうことになっていた。ひどい軍隊ですよね。なので、日本軍の兵士たちが略奪にいそしんだのは当然です。
日本軍の食糧を運ぶため近くの村々から人々を追いたてて使ったりするが、この人々はまったく協力的でなかった。お金を支払おうとすると、韓貨でしか支払えず、その韓貨は重たくて大きく持ち運びに不便だった。これも現地の人々による抵抗の一環なんでしょうね。
 日本軍に都合の悪いことがほとんど伏せられた「公刊戦史」なるものが、いかにインチキくさいものであるか、よくわかる本です。司馬遼太郎の『坂の上の雲』を呼んだ人にとっては必読の書です。
(2022年7月刊。税込1760円)

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