弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年6月28日

非戦への誓い

社会


(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版 あけび書房

ロシアのウクライナへの軍事侵攻、つまり戦争が始まって4ヶ月になります。ユーチューブの映像でリアルに戦闘場面を見ることができます(ドローンによる上空からの撮影動画)。
戦車が撃破され爆発する映像を見るたびに、戦車内にいた4人か5人の若者たちが一瞬に蒸発したかのように死んでいったのかと、本当に胸が痛みます。
そんなロシアによる戦争を見せつけられ、少くない日本人が平和憲法、とりわけ9条に不安を抱き、軍事予算を倍増させようという自民・公明の政権党、それをあおりたてる維新などに心を動かされているようです。
でも、ちょっと待ってください。日本が原子力潜水艦をもって、北朝鮮や中国から日本を守れるなんて、ありえないでしょ。日本海側にたくさん立地している原発(原子力発電所)へのミサイル攻撃を防ぐことなんて出来るはずがありません。そんな事態にならないよう、日本が戦争に巻き込まれないように外交努力を強めることこそが日本の政治家のつとめなのです。
イラクでは、日本の沖縄は、「殺人鬼を製造する島」だと思われている、とあります。これには、正直、ショックを受けました。イラク戦争でイラクの人々を殺したアメリカ兵の多くが、「自分は沖縄の基地から来た」と話していたから、イラクでは、沖縄というところは殺人鬼をつくる島だと信じられているというのです。
いやあ、これは、とんだ濡れ衣(ぎぬ)ですよね。いや、ちょっと待った。今、日本政府が強引に建設を強行している辺野古新基地建設において、沖縄の現地住民の気持ちは、玉城デニー知事を先頭とする沖縄県庁をふくめて、ほとんど無視されていますよね...。
敗戦直前の沖縄戦の過程で、軍隊(日本軍)は住民を助けることは二の次で、目標の主たる優先順位は軍隊であって、余裕があれば(そんな余裕は実際にはない)、住民を救助することがある、という程度でした。
沖縄県民にとって、自分たちを守ってくれるはずの沖縄の軍隊は、住民の身の安全を守るどころか、軍隊を守ることが最優先だった。
戦争は、ある日突然に起きるのではない。戦争になるのが当たり前という雰囲気がつくられていく。今、まさしく現代日本が同じ状況ではないでしょうか?
アフリカ沖のスペイン領のカナリア諸島に「憲法9条の碑」があるそうです。
ロシアのウクライナへの侵略戦争が続くなか、日本国憲法9条は意味を失ってしまったのではなく、逆に今こそ9条の出番なのです。平和は銃口の先に生まれるのではなく、みんなで話し合うこと、つまり外交交渉によってこそ実現できるものなんです。
自民・公明の日本政府が非核条約を批准せず、ウィーンで開かれている国際会議に出席もしないというのは、いつものアメリカ言いなりの姿勢そのもので、世界中をガッカリさせるものでした。日本国憲法9条を馬鹿にしてはいけません。この9条を生かすも殺すも、私たち次第です。
著者は私と同じ団塊世代です。私と違って語学の天才のようですから、まさしく国際派のジャーナリストです。いつも、いい本をありがとうございます。
(2022年3月刊。税込1980円)

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