弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年10月14日

戦争と文学(日中戦争)

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 火野 葦平 ・ 石川 達三 ・ 五味川 純平 ほか 、 出版 集英社文庫

 戦前は、「日中戦争」とは呼ばれなかった。「支那事変」と呼ばれた。というのも、戦時国際法は、戦争を始めるとき、最後通牒の提示と、宣戦の布告を定めていたが、日中間一連の武力衝突は、それら国際法上の義務を欠いていた。なので、「戦争」ではなく、「事変」と呼んだ。
 日本は、この「事変」に35個師団と、のべ200万にのぼる大兵力を動員し、40万人以上の戦死者を出した。
 日本軍は、どんな奥地にも慰安所を設置した。これは軍そのものが管理した。民間人が勝手に設置することが許されるはずはなかった。
 兵隊たちは、奥地で設置された場所にいる中国人の女か、また別の、ちがった場所にいる朝鮮人の女たちのところへ通うようになっていた。その朝鮮娘たちも、みんな国防婦人会にはいっていて、天長節そのほかの記念日や、祭日には、洋服を着たり、和服姿で、肩に「国防婦人会○○支部」と黒く染めぬいた白いタスキをかけ、同じ服装をした芸奴たちと並んだ。
 討伐(とうばつ)という言葉は好きでない。ウサギ狩りのように、何か簡単に掃蕩(そうとう
)ができるものと思われがち。しかし、華々しくはない。討伐ほど困難で苦労の多い戦闘はない。これまでの経験では、討伐のほうが、かえって苦戦し、多くの犠牲を出している。敵は堅固な陣地を構築し、機関銃や迫撃砲を有している。討伐戦では常に壮烈な激戦が行われる。
 兵士たちは、「今度のチャンコロは馬鹿にすると、ひどい目にあうぜ」と、差別語まる出しで、恐怖心をあおりたてた。
 いやはや...。でも、今でも右翼雑誌が堂々と書いて宣伝していますよね。たとえば、国葬反対の国民世論を操作しているのは左翼弁護士だ。また、国葬反対運動のバックには共産党がいる...などです。こんなインチキに惑わされて信じ込む人がいるのも残念ながら現実です。
 戦争をあおりたて、戦争を美化して戦争の現実から国民の目をそらさせようとしていた戦前の日本社会を振り返ってみました。700頁という部厚い文庫本の大作です。
(2019年11月刊。税込1870円)

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