弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年10月 4日

人は、なぜ戦争をするのか

社会


(霧山昴)
著者 アインシュタイン 、 フロイト 、 出版 講談社学術文庫

 アインシュタインは言う。
 人間の心自体に問題がある。人間の心のなかに、平和への努力に抗(あらが)う諸々(もろもろ)の力が働いている。
 権力欲を後押しするグループがいる。金銭的な利益を追求し、その活動を推し進めるために、権力にすり寄るグループだ。戦争のときに武器を売って大きな利益を得ようとする人々がその典型。彼らは、戦争を自分たちに都合のよいチャンスとしか見ない。個人的な利益を増大させ、自分の力を増大させる絶好機としか見ない。
 人間には、本能的な欲求が潜んでいる。増悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が。破壊への衝動は、いつもは心の奥深くに眠っていて、特別なことが起きたときだけ表に顔を出す。
 なーるほど、アインシュタインは、人間の心奥底深くに憎悪の念、すべて破壊しようとする衝動が眠っているとしたのですね...。
 さらに驚くべきは、次の指摘です。
 自分(アインシュタイン)の経験に照らせば、「教養のない人」より「知識人」のほうが暗示にかかりやすい。「知識人」こそ、大衆操作による暗示にかかって、致命的な行動に走りやすい。
 ええっ、そ、そうなんでしょうか...。私の常識とは真逆でした。
 なぜか。「知識人」は現実を、生の現実を、自分の目と自分の耳でとらえないからだ。紙の上の文字、それを頼りに複雑に練りあげられた現実を安直にとらえようとするから...。
 実に手厳しい批判です。現実を直視することなく、プロバガンダに流されていく人が多いのは、安倍元首相の国葬の日に一般献花台に献花するため大行列をつくった人々の存在が、悲しいことに、それを証明していますよね(もっとも、統一協会の信者が全国から全力動員かけて集まったという説もありますよね)。
 アルバート・アインシュタインの手紙を受けとった、ジグムント・フロイトは次のように返信を書きました。
 法律は支配者たちによって作りだされ、支配者に都合のよいものになっていく。
 法といっても、つきつめたら、むき出しの暴力にほかならない。「法による支配」を支えていこうとすれば、今日でも暴力が不可欠だ。
 人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない。破壊兵器がこれほどの発達をみた以上、これからの戦争では、当時者のどちらかが完全に地球上から姿を消すことになる。場合によっては、双方ともこの世から消えてしまうかもしれない。
 アインシュタイン53歳、フロイト76歳。ともにユダヤ人。アインシュタインはナチスに追われてアメリカに亡命。フロイトも同じくイギリスへ亡命。この2人が、国際連盟のすすめで意見交換したのです。
 ロシアのウクライナへの侵略戦争が2月に始まって、もう7ヶ月たちましたが、終わる目途すら立っていません。そして、この戦争も喰い物にしている軍需産業がアメリカにもヨーロッパにもいるという腹立たしい現実があります。わずか100頁ほどの小さな文庫本を手にして、一日も早くロシア軍のウクライナからの撤退、戦争終結を心から願いました。
(2017年12月刊。税込660円)

 北海道に行ってきました。久しぶりです、旭川での会議のあと、小樽郊外の朝里川温泉の温泉旅館に泊まりました。春には桜の名所のようです。露天風呂に浸りながら、まだ紅葉にはほど遠い緑の楓(カエデ)を愛(め)でました。湯加減が絶妙で、うっとり眠り込んでしまいそうな、いい湯でした。
 20年来の友人たちと3年ぶりに再会しました。コロナ禍で死ぬ思いをしたり、経過観察中として執行猶予の身だという告白もあり、みんな年齢(とし)相応に病気もちでした。それでも、日弁連の役職(会長・副会長・事務総長)を終えて、20年たって元気に再会できたことを喜びあいました。私も元気をもらって帰ってくることができました。

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