弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年8月31日

リセットを押せ

アメリカ


(霧山昴)
著者 ジェイソン・シュライアー 、 出版 グローバリゼーションデザイン研究所

 ニューヨークタイムズがアメリカのベストセラーとして紹介したゲーム業界の栄枯盛衰の話です。私は今なおスマホは持たずガラケー、メールは見るだけで自ら発信することもない、もちろん、ゲームなんて、かのインベーダーゲーム以来、とんととんと無縁に生きてきました。
 ゲームの面白さを知らずして人生を語るな。こう言われてしまいそうですが、私に言わせてもらえば、他人(ひと)の手の平(ひら)の上で踊って(踊らされて)何が面白いの...、ということです。それでも、かくもたくさんの人々を惹きつけてやまないゲーム業界とはいったいどんな状況なのかは知りたいのです。なので、ざっとざっと読んでみました。
 ゲーム業界とは、どんなところなのか...。この業界で一番嫌いなところは、開発者たちの生き血をすすり、骨までしゃぶってから捨てる。
 ビデオゲーム業界に安定という言葉はない。確実なものは何もないのだ。ビデオゲーム業界で30年以上も働いたという人は、あまり多くない。
 ビデオゲーム業界で働いていて、一番辛(つら)いのは、友人ができても突然引き裂かれる可能性があること。
 ビデオゲームは楽しんでもらえることを目指して作られる。ところが、実際は、企業の冷酷な論理の下で製作されている。
 ビデオゲーム制作会社の社員たちは、自分の時間も家族との時間もあきらめて完成にまでこぎ着ける。その犠牲の代償が失業、だとしたら、あまりにも不条理なのではないか...。
 いやあ、ホント、本当ですよね。
 ビデオゲーム制作会社での不安定な労働環境はあたり前になっている。従業員は、5年間にフルタイム勤務で2.2社、フリーランスで3.6社つとめている。それほど雇用の不安定は際立っている。しかも、収入は良くても、燃え尽きてしまう。アパートの1室で1日16時間も働くという生活は、明らかに持続不可能だ。ときには休息が必要なのだ。
 年収10万ドルの高給取りでさえ、物価の高いサンフランシスコでは生活に苦労する。悪くない収入を得ていても、裕福というほどではなく、生きるのに精一杯というのが実際だ。
 ビデオゲームの開発は、2つの段階に分けられる。ゲームを設計するプリプロダクションと、実際に制作するプロダクションだ。ただし、2つのあいだに明確な境界線はない。時間と予算に応じて、短くなったり、長くなったりする。
 たかがビデオゲームをつくるのに、何日間も徹夜するなんて、まったく信じられません...。
 若さにかまけて、そんなことしていたら、年齢(とし)をとって、身体中が内臓をふくめてガタガタ、病気もちの身になってしまいますよ。気をつけてください。
(2022年6月刊。税込2420円)

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