弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年6月14日

日本の教育、どうしてこうなった?

人間


(霧山昴)
著者 前川 喜平・児美川 孝一郎 、 出版 大月書店

前川喜平さん(文科省の元事務次官)は、経産省なんて日本に不要だ、ヒマなものだから教育分野にまで口を出してきて、日本の教育を歪めていると指摘しています。
うむむ、なーるほど、そういうことだったのかと思いました。アベ内閣では経産省があまりにも幅をきかせすぎていました。自由主義経済で企業が何でもやっているのだから、経産省は、何もやることがなくなっている。存在価値がなくなっているので、専門領域でもない教育の分野にまで口を出してきて、産業に奉仕する「人材」育成なんて間違った観念を押しつけている。まったくひどい話です。
そもそも人間って、目的に養成できるものなのか、前川さんは根本的な疑問を抱いています。
最近、福岡でも夜間中学がはじまりました。全国に夜間中学が36校あって、生徒数は2千人。1割は形ばかりの卒業者、そして8割は外国人。県と政令指定都市に最低1枚は夜間中学をつくろうと文科省は叫びかけている。いやあ、これはいいことだと思います。文科省もたまにはいいことをするのですね...。
不登校その他、中学校でちゃんと学んでいない人に普通教育を学び直す場として、夜間中学は大事なものだと前川さんは強調しています。まったく同感です。
学校を株式会社が設立・運営するなんてことはやめるべきだと前川さんは言います。公益性をもつ学校法人が学校を運営するという制度を崩してはいけない。まったく、そのとおりです。人間をつくるというのは商品生産とは、まったく違うものなんです。
日教組の組織率は下がっているし、文科省とは慣れあっている。まるで牙を抜かれたみたいになっている。残念ながら、これもそのとおりです。
学習指導要領の策定と教科書検定は、独立した機関が担うべき。そのとおりです。
学校現場はもっと自由でなければならない。ところが、文科省にとって日教組の弱体化が至上命題になってきた。これは本当におかしなことです。
教師はやらされる仕事が多すぎる。とくに書類づくり、教育の観点から意味のない文書作成が多うい。日本の教師は、授業をしている時間以外の勤務時間が諸外国に比べて圧倒的に長い。いやあ、気の毒なほどです。もちろん、そのしわよせは子どもたちにいきます。
学校が部活動で名をあげようとするのは、やめるべき。
教員に時間外手当を支払わなくてよいとした給特法は廃止すべきで、労働基準法をそのまま適用すべき。これには、まったく大賛成です。基本給の4%を一律に支給するなんて、そんなゴマカシは許せません。
教員志望者が激減している理由は、学校に自由がないことにある。やらされ仕事を減らすべき。25人学級を目ざして、ゆとりのある少人数学級にしたら、志望者は増えると思います。
日本の教育制度をふり返って、問題点を具体的に指摘している本です。広く読まれるべき本だと私は思いました。
(2021年1月刊。税込1600円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー