弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年11月 1日

迫りくる核戦争の危機と私たち

社会


(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 あけび書房

 2月に始まったロシアによるウクライナ侵略戦争は、いつ終わるか不明のまま、越年しそうで心配です。このロシアの戦争を前にして、日本も核兵器で武装すべきだとか、アメリカと「核」を共有すべきだとか声高に叫ぶ人々がいます。
 日本が核を持ったら、日本の平和が守れるなんて、ちょっと真面目に考えたら、ありえないことがよく分かるのではないでしょうか。なにしろ、日本は、日本海に面して、たくさんの原子力発電所をもっていますから、そこに通常兵器のミサイルを打ち込まれたら日本はおしまいなのです。
 3.11の福島第一原発は地震による津波被害という自然現象でした。それでも大変な苦労をしているというのに、ミサイルで攻撃された原子力発電所は膨大な放射能を出し続け、もう誰にもそれを止めることができません。
 世界には原子力発電所が434基もあるとのこと。つまり、地球規模で考えて、人類は核戦争を始めてしまったら、この地球上どこにも住むところがないことになるのです。まさしく、「核の冬」は人類を絶滅させます。
 この本の著者は、一貫して核兵器を直ちになくせと主張し、行動してきました。まったくそのとおりです。
 今ひとつの危険は事故によって核戦争が始まりかねないということです。現に、これまで、何回となく核戦争が起きそうになりました。それはあの悪名高い「キューバ危機」だけでなく、本当の事故です。人為的ミスがどうかは別として、核攻撃を告げるアナウンスが間違ってされたことは現に何度もあります。人間がやっていることですから、どうしても間違いは起こりえます。それを防ぐことはできません。これまで、たまたま重大な事故にならなかっただけなのです。
 ロシアの保有核弾頭は4630基で、そのうち1625基が実戦配備されている。
 ロシアは1キロトンの小型核兵器を2000発保有している。それを前提として、ロシアのプーチン大統領は核兵器をつかうぞと威嚇しているのです。本当に怖いです。
 「平和を望むなら、戦争に備えよ」
 「平和を望むなら、核兵器に依存せよ」
 世界には1万2千発の核弾頭があり、その運搬手段は高速化し、精緻化している。
 ところが、日本政府は相変わらずアメリカの「核の傘」に依存し続けていて、核兵器禁止条約に反対している。アメリカの核抑止力を損なうことになるからというのが理由。おかしな理屈です。
 核兵器は、戦闘のための手段ではない。相手方の力を弱めるための、相手方の敵意をそぐための「国際政治の道具」なのだ。これが核抑止論者の考え方。
 しかし、すでに核抑止論は破綻している。ウクライナはプーチンの核使用の威嚇にもかかわらず、戦闘を続けている。
 核による脅しは、現実には核軍拡競争を激しくしただけ。このように、核兵器によって平和と安全を確保しようとする核抑止論は、理論的に破綻しているというだけではなく、現実的にもその効用が証明されているものでもない。
 地球上に核兵器がもっとも多かったのは1986(昭和61)年で、7万発あった。それが、今では1万3千発に減っている。
 原資爆弾はまさしく「悪魔の兵器」なので、なくすしかない。まったくそのとおりです。
 今、多くの日本国民が物価高に苦しみ、年金の切り下げ、賃金の低下と不安定雇用で先行き不安をかかえているのに、軍事予算の増大に半分以上が賛成しています。先日のJアラート効果は抜群でした。日本政府が苦しい状況に置かれると、そのタイミングで都合よく北朝鮮がミサイルを打ち上げる。このタイミングの良さから、北京で日本政府が内閣官房機密費を原資として「賄賂」を提供しているという噂が消えません。いやあ、先日のJアラート効果は絶大でした...。政府の世論誘導に国民がすっかり乗せられています。
 いま、大いに読まれてほしい一冊です。著者の論文集、講演録を一冊の本にしていますので、重複が多いのが少し残念でした。著者より贈呈を受けました。ありがとうございます。ますますの健筆を祈念します。
(2022年11月刊。税込2420円)

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