弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年8月17日

音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む

人間


(霧山昴)
著者 川原 繁人 、 出版 朝日出版社

 うちの子が幼いころ、「とうもろこし」は「とうもころし」と、「ヘリコプター」は「ヘークリッパ」と呼んでいました。今でもよく覚えています。
 この本によると、よく似た例として、「オタマジャクシ」は「オジャマタクシ」に、「ジャガイモ」を「ガジャイモ」と言う子もいるそうです。「テレビ」を「テベリ」と言うに至っては、聞く側は少しばかり想像力を働かせなくてはいけませんね。
 著者の幼い娘たちは、着換えのとき、「ばんざーい」を「じゃんばーい」と言ったそうです。すかさず録音したのは、さすが音声学者。
 子どもたちの発音を録音して分析し、それに意味づけしていくのが学者の仕事なのです。
 ことばの順番がひっくり返る現象を「音位転換」と呼ぶ。
 「ピカチュウ」は「カプチュウ」に、「おさかな」は「おかさな」となる。
 著者は夫婦そろって音声学者。アメリカにも留学し、中学生のときから英語が好きになって、アメリカに留学して、ペラペラになったとのこと。なので、幼児のときから無理して英語を勉強する必要はなく、好きになったら英語は話せるようになるものだと自らの体験をもとにしています。同感です。もっとも、私のように好きでフランス語を始め、今なお続けていても、ちっともうまく話せないような人もいるわけですが...。
 一般に「声を出す」というと、ノド(声帯)を意識しがちだが、呼気(肺から出てくる空気)がなければ、声は出せない。声は肺から始まる。よって、肺の仕組みを意識的に理解すると、声が出しやすくなる。ふむふむ、そうなんですか...。
 保育園児の著者の娘は、「うさぎぐみ」、「たんぽぽぐみ」にいたので、「あたしの『ぐみ』では...」と「ぐみ」と濁って言った・
 そして、一匹、二匹を、「いっぴき」、「にぴき」と言った。なるほど、それは、そうなりますよね。同じように「さんぴき」、「しっぴき」、「きゅっぴき」です。いやはや、ホントそうですね。
 著者は都内・渋谷のコギャルたちにも突撃取材しています。勇敢ですね。
 「ちょべりば」は、「ちょーべりーばっど」。「ちょべりぐ」は、「ちょーべりーぐっど」。「ちょばちょぶ」は、「ちょーばっど、ちょーぶるー」。「けろんぱ」は「毛がロングで、ぱつきん」。「カリパク」は、「借りたまま、ぱくる」。いやはや、すごい略語です...。日本人は、このように、4文字リズムが好きだ。
 赤ちゃんに話しかけるときは、高い声で話したほうが赤ちゃんの注意をひきやすい。高い声を出すと、赤ちゃんの共感を得やすい。
 女性の名前は、「共鳴音を含んだ名前」が魅力的で、男性名は、「阻害音を含んだ名前」が魅力的とされる傾向が強い。共鳴音は、マ・ナ・ヤ・ラ・ワ行。阻害音は、パ・タ・カ・バ・ガ・サ・ザ・ハ行。この区別は「濁点をつけられるか、つけられないかで判断できる。とはいっても、『魔女の宅急便』の「キキ」は阻害音だけど、魅力的な女の子だ。日本人の女性名に含まれる子音のうち67%が共鳴音で、男性名に含まれる子音は64%が阻害音。怪獣の名前は、濁音を含むものが73%にのぼる。
 この本の結論は、音声学を知ると、人生がとても豊かになるということ。ええーっ、そ、そこまで果たして言えるのでしょうか...。それにしてもわが娘を、いわば実験台にして音声学を深く研究した著者のご苦労に対して、心より敬意を表します。面白い本でした。
(2022年6月刊。税込1925円)

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