弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2022年5月23日

フランス料理店・支配人の教科書

社会


(霧山昴)
著者 大谷 晃 、 出版 キクロス出版

久しくフランス料理を食べていません。イタリアンは先日、連休中にいただきました。コロナ禍のせいでしょうか、私たち夫婦以外に客がなく、心配しました。私たちが帰ったあとに客が来てくれたらと願っています。2年ぶりに行ったのです。その前でも年に1回くらいしか行っていませんでしたが、とても美味しい店です。
この教科書は、出された料理皿をシェアしてはいけないと書かれていますが、私はいつもシェアしています。すると、一人で行ったら、せいぜい3皿も食べれば腹一杯になるところ、なんと7皿も注文できます。年齢(とし)とると、少しずつ、美味しいものをいただきたいのです。フランス料理の店でも、ぜひ彼女とシェアして食べたいです。
この教科書によると、今ではヌーベル・キュイジーヌとは誰も名乗らないのだそうです。1980年代までのことだったとのこと。知りませんでした。
私の好みは「リー・ド・ヴォー」です。仔牛(ヴォー)のうち、乳だけで育てられた(草食を始める前の)生後2、3ヶ月のもの、胸腺肉の料理です。もう久しく食べていません。ああ、ぜひぜひ食べたい...。
この教科書に出てくる日本のフランス料理店では、銀座にあった『マキシム・ド・パリ』そして『銀座レカン』、そこで司法修習生の接待を口実として会食させていただきました。私もまだ若く、しかもバブル時代のことです。まず赤ワインを飲み、次に白ワインを注文したら、ソムリエに叱られてしまいました。注文する順番が逆だというのです。魚は白、肉は赤という定石すら知りませんでした。無知であっても、若さは怖いもの知らずでした。
少し年齢(とし)とってからは、新宿のジョエル・ロビュションの店や『タテル・ヨシノ』にも行きました。南フランスのホテルで一つ星レストランに行ったときは、アラブの若い富裕層の一団が店内にいたせいで、とても料理が出てくるのが遅く、延々と時間がかかり、夜10時ころにやっと食べ終わり、さすがにくたびれました。同じ南フランス・リヨンの『ポール・ボーキューズ』は、さすがにサービスも満点でした。シェフが各テーブルに挨拶してまわるのにも驚きました。
著者は、あとがきに「食品ロス」のことに触れています。大切なことですよね。飢えに苦しむ大勢の人がいるのに、食べものを大量に捨ててしまう現実があるのは、本当に悲しい現実です。
支配人の役割について書かれていることは、弁護士にもあてはまることが多いと思いながら読みすすめました。たとえば、観察力をみがいて、お客様(の心理)を読みとく必要があるというのです。弁護士もそうです。目の前の人が結局、何を求めているのか、よくよく観察する必要があります。
「支配人はどう思いますか?」と意見を求められたとき、まず封印すべきは感情。これは、ショックでした。ああ、そうなんですね。誰も、感情なんて聞きたくないのです。冷静に問題の全体を見渡し、最善の策を意見として述べる。そして、このとき、その意見の背景、判断の基準とした情報もあわせて示す必要がある。なーるほど、ですね。
注文された料理の食材がないことを知っているときでも、「ありません」と即答せず、「調理場に確認してまいります」と言って、いったん引っ込む。「ない」と言ったら、客はしらけてしまう。そして、調理場と相談して、注文の品に近いものを代案として提案できないか考えてみる。うむむ、そうなんですね、そういう手があるのですか...。
この教科書のすごいところは、「調子の良いときほどスタッフを休ませる」ことをすすめているところです。休むのも仕事のうち。スタッフが疲弊しないで働けるように配慮するのも支配人の大切な努めなのです。私も心したいと思いました。
久しく行けていないフランス料理店の裏側をのぞいてみようと思って読んだ教科書ですが、弁護士の私にとっても、大変勉強になる内容で一杯でした。
(2022年3月刊。税込2970円)

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