弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年12月 4日

7.5グラムの奇跡

人間


(霧山昴)
著者 砥上 裕將 、 出版 講談社

全口径24ミリ、重量7.5グラム、容積6.5ミリリットル。これが人間の眼。
眼科医院で働きはじめた視能訓練を主人公とした画期的な本です。画期的というのは、眼科医院を舞台とした小説を私は読んだことがありませんでした(すでにあるのでしたら、私の無知について、すいませんとしか言いようがありません)。しかも、視能訓練士なる職業があるって、聞いたこともありませんでした。
生物が目をもったことで、一大変化が起きたというのは、前にこのコーナーでも紹介したことがあります。私は揺れる電車のなかで本を読みはじめて50年以上になります(今も読んでいます)が、今でも本を読むときはメガネの必要はありません。遠視(老眼)ではなく、近視のままです。暗くなければ、バスの中でも本を読めます。
私は40歳のころから年に2回、眼科で検査を受けています。今では、さすがに老化による白内障の特徴があるという診断を受けていますが、緑内障ではありません。おかげで、年間500冊(今年は400冊を突破するのがやっとです)の単行本を車中で読むことができています(例年よりすくないのは、この1年間、上京することがなかったからです)。なので、眼は大切だと考えています。
この本にも登場しますが、私の子どもも心因性視覚障害をもっていました。ストレスから見えているのに、本人は見えないと訴えるという症状です。世の中は、本当に複雑です。
それにしても、この本はよく出来ています。ヒトの目のことを素材として、うまくストリーリーが展開していって、すべてがハッピーエンドではないけれど、なんだかホンワカとした気分にさせてくれるのです。
たとえば、緑内障。これは、治る病気ではない。ただ、進行を遅らせて、失明しないようにするだけの治療。そのためには、眼圧を測り、定期的に目薬を差す必要がある。
眼圧とは、目の硬さのこと。硬すぎると、視神経を圧迫して視野の欠損が進む。残された視野を温存するためには、時間と回数を守って、目薬を差すしかない。
眼科医がどんなにがんばっても緑内障を治すことはできない。ただ、目薬を差す。失明までの時間を、明日へ明日へと押しやり日々を過ごしていくだけ。
カラーコンタクトを入れている患者。このコンタクトレンズの使い方が悪くて、瞳に深く傷が入っている。また、角膜が円錐形になっている、円錐角膜。角膜が突出し、菲薄(ひはく)化、脆弱(ぜいじゃく)化していく。症状が進むと、最悪の場合は失明してしまう。ところが、患者は、自分が自分であるためにはカラーコンタクトを使っていきたいという...。
コンタクトレンズは、酸素が目に十分に供給されなくなり、酸素不足になって、角膜が傷つきやすくなる。そして感染症にかかるリスクもある。
視能訓練士とは、視機能学に特化した教育を受けて、眼科医療に関わる専門的な機器を使いこなし、医師の指示のもと、検査や視機能に関する訓練を担当する専門技師。
この本を読むと、眼科医院って、本当に大切な仕事をしているんだと実感させられます。
自分の眼を大切にしたい人には、ぜひ読んでほしいと思いました。著者は福岡県出身で水墨画家でもあるそうです。
(2021年10月刊。税込1705円)

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