弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年12月10日

弁護士CASE FILE Ⅰ

司法


(霧山昴)
著者 早稲田リーガルコモンズ法律事務所 、 出版 朝陽会(グリームブックス)

私は若いころ『弁護始末記』を夢中になって読みました。もちろん全巻よんで、今も持っています。若い弁護士に読むようにすすめているのですが、なにしろ30巻もあって大変です。もともとは大蔵省印刷局が発行していた『時の法令』に22年間にわたって連載されていたものが順次、本になっていたのです。大変面白くまた勉強になりました。
そして、この本は、この『時の法令』で始まったものを1冊にまとめたもので、14の論稿(ケース紹介)からなっています。かつての『弁護始末記』を思い出しながら読みすすめました。
ちなみに、私が『弁護士のしごと』シリーズ(6冊)最近、刊行したのは、この『弁護始末記』にならったものです。
私がまったくやっていないし、これからもやれないだろうけれど、弁護士の仕事の一つとして大切だと考えているのは、「子どもをサポートする仕事」(西野優香弁護士が執筆)です。
東京は「コタン」(子ども担当弁護士)という制度があるとのこと。児童養護施設、自立援助ホーム施設に入った子どもについて、コタンは親や学校との調整をしたり、子どもから日々の相談を受けたり、子どもたちが安心して生活し、社会に巣立っていけるようにサポートする。とくに親の虐待事案では、親のほうはあらゆる手段を使って子どもの居場所を突きとめようとするし、子どもを返してくれないのなら、学費は出さないと親が言ったりするので、慎重な対応が必要。いやあ大変な仕事ですね。でも、児童相談所とは別にコタンがいるっているのは、子どもにとって、きっと心強い味方になりますよね...。コタンは、月に1回のペースで様子を見に行ったり、一緒に食事に出かけたりするとのことです。これも弁護士としての立派な仕事です。本当に頭が下がります。
そして、未成年後見というのもあります。私はまだ担当していませんが、こちらは福岡でも聞きます。この本では5歳の女の子のケースが紹介されています。父親不明のままシングルマザーが亡くなり、その母の良心まで相次いで亡くなってしまったため、児童養護施設に入っている子の後見人に就任したのでした。
面会に行くと、自分にお客が来てくれたことを喜んでくれているようで、いろいろ明るく話してくれた。何か困ったことがないかと尋ねると、「みんながいなくなっちゃうと、さみしい」との答えが返ってきた。不覚にも涙が出そうになった...。読んだ私も6歳と3歳の孫をもつ身として、思わず涙ぐんでしまいました。母親が亡くなり、祖父母も死んでしまったら、誰かが愛情をもって支えてやる必要があります。それは施設だけにまかせていいということではないでしょう。本当に大切な仕事をしていると実感しました。とてもお金にはなりそうもなく、金もうけの世界とは無縁でしょうが、お互い人間らしく生きていくうえで必要不可欠な仕事です。これから弁護士になろうとする人にはぜひ読んでほしい一文です。
もう一つだけ紹介します。「ホームレスは社長だった事件」(川崎建一郎弁護士の執筆)です。ホームレス支援をボランティアでやっている弁護士は、福岡でもときどき聞きますが、東京では継続的な取り組みになっているようです。2008年12月の「年越し派遣村」に協力したことがきっかけで、生活保護申請の同行・支援をするようになった。そのなかで出会ったホームレスの話。生活保護の申請をすすめると、絶対に家族に自分の状況を知られたくないから嫌だという。
そして、ついに身の上話を聞き出すと、なんと50人もいる工場を有する社長だったのに、なにもかも嫌になって、ある日突然、家を出てホームレスになったという。もともと親の稼業を継ぎたくなかったようで、ともかく事業をやめたいという相談になった。まあ、本人が、それほど意思が固いのなら、弁護士としては、会社を清算するしかありませんよね。すべてが終わったあと、その元社長は、今はコンビニでレジ打ちの仕事をしている。時給1000円ほど。億単位の売上のある社長をしていた人がコンビニの店員になって、しかも、本人は、それでいい、今が幸せだ、これは自分で選んだ仕事なんだから...。いやあ、一回限りでしかない人生っているのは不思議ですよね。やっぱり自分の選択って大切なんですね...。
弁護士の仕事を社会と人生との関わりで深く考える材料を提供するシリーズの始まりです。次巻を楽しみにしています。
(2021年11月刊。税込1100円)

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