弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年11月25日

やさしい猫

社会・司法


(霧山昴)
著者 中島 京子 、 出版 中央公論社

日本にやって来たスリランカ人がビザの期限が切れているのが品川駅で警察官から不審尋問を受けて発覚。不法滞在者として身柄は東京入国管理局に拘束された。しかし、彼には日本人女性とのあいだで結婚の話があり、紆余曲折しながらも入籍していた。入管当局は、この結婚を偽装結婚として、国外退去を命じた。これに異議申立して、ついに東京地裁で裁判が始まる。
オビに「圧巻の法廷ドラマ」とありますが、まったくそのとおりです。入管行政の問題に詳しい指宿昭一弁護士に丹念に取材してこの本が出来あがったことがよく分かります。女性の訴務検事が、偽装結婚を認めさせようと、根堀り葉掘り、嫌らしく問い詰める様子は、まったくそのとおりで、この人(女性検事)は何が楽しくて、こんな尋問をしているのか、自問自答することはないのかと、小説ではありますが、とても気になります。
そして、法廷で証言することの大変さが、高校生の娘の心理描写で、ひしひしと伝わってきます。
入管行政の問題点が、この本を読むと、すんなり頭に入ってきます。要するに、日本政府は「優良外人」(モノを言わず、ただひたすら働くだけの人々)だけがほしいのです。少しでも当局に歯向こうものなら、たちまち本国に身ひとつ帰国するよう指示します。
そして、収容所での処遇は劣悪と言うほかありません。
茨城県牛久市にある入管の収容所(東日本入国管理センター)だと、東京から往復で4時間もかかってしまう。とても辺鄙な土地にある。
「小さな家族を見舞った大事件」とオビに書かれていますが、まったくそのとおりのストーリー展開です。本当に話の運びが自然ですし、読ませます。最後は、あえなく敗訴してしまうのかと心配していたら、なんとハッピーエンドでした。
来日した外国人の毎日の生活の実情について、詳しく紹介されてて勉強になります。
タイトルだけでは何をテーマとした小説なのか、さっぱり分かりませんが、読み出したら止まりません。いつもながら、さすがの著者の筆力に驚嘆し、圧倒されました。
(2021年10月刊。税込2090円)

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