弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年11月24日

ホロコースト最年少生存者たち

ドイツ


(霧山昴)
著者 レベッカ・クリフォード 、 出版 柏書房

この本の冒頭の写真とキャプションに驚きました。
アウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所が1945年1月に解放されたとき、子どもが400人以上いた。ただし、ほとんど病気(結核など)や栄養失調だった。
また、ベルゲン・ベルゼン強制収容所も1945年4月に解放されたとき、子どもが700人以上いた。ブーヘンヴァルト強制収容所が解放されたときは、ユダヤ人の子どもが1000人以上いた。
これらの強制収容所は絶滅収容所として有名ですから、これほどの子どもたちが生き残っていたというのは信じられない、奇跡的な出来事です。ただし、手放しで喜んではおれません。
この本は、1945年の解放時に10歳以下だった子どもたちを歴史研究の対象にしています。幼年時代にホロコーストを体験した子どもたちが、そのときのことをどうみているのか、その体験はどんな影響を与え、また克服していったのか、興味深いものがあります。
大半の人は、自分の幼年時代のことについて、両親や家族、コミュニティそして自分の属する集団や社会の人々が思い出せない話や情報を提供してくれる。ところが、ホロコーストを経験した子どもたちは、たとえば両親や家族を失い、キリスト教信者の家庭で育ったりして、その幼年時代の人生の物語は穴だらけになってしまう。すると、「自分は何者なのか?」というもっとも根源的な疑問への答えは自分で見つけるしかない。
幼い子どもの経験と、思春期の若者や大人の経験とは決定的な違いがある。幼い子どもたちには、思い出せるような戦前の自己がない。振り返るべき戦前のアイデンティティがない。そうなんでしょうね。そのことの重みが想像できません。
一般に、子どもは例外を普通と受けとめる能力に長けている。比較すべきほかの生活を知らなければ、迫害や追及を受けたとしても、それに危険や不安を感じて混乱することはない。子どもたちが本当の意味で混乱や衝撃に見舞われたのは、戦時中ではなく、戦争が終わってからだ。というのも、終戦により、子どもたちは、それまで築き上げてきたものが一気にひっくり返ってしまった。戦争中はまだ幼く、日々の暮らしだけで精一杯だった。戦争の影響をもろに感じたのは、むしろ戦争が終わったあと。自分のなかで闘いが始まったのは、1940年ではなく、1945年。父も母も兄も、もう戻ってはこないと知ったとき、その闘いは始まった。
なんとなく分かりますよね、これって...。
ブーヘンヴァルト収容所から解放された子どもたちは、無感覚、無頓着、無関心な態度で、声をあげて笑うことも、顔に笑みを浮かべることもなく、スタッフには著しく攻撃的になる。不信と疑念に満ちている。感情的麻痺だ。大人を警戒し、食べ物を貯め込み、よく子ども同士で激しいケンカをした。スタッフは、子どもの体は回復しても、心は回復しないのではないかと危惧した。ところが、実際には、驚くほどの速さで回復していった。人間には信じられないほどの身体的・心理的回復緑があることを証明した。
子どもには現在のニーズや要求にあわせて過去を書き換えられる柔軟性がある。子どもたちは、大人のさまざまな要求にあわせ、巧妙かつ堂々と自分の過去をつくり変え、父や母が生きている事実さえ隠そうとした。大人の意図が錯綜するなかで、自分の意思を貫き通すため、情報や感情を隠したり、新たに確立された愛情を断ち切られるのを拒んだり、場合によっては、自分の過去を意図的に修正したりした。
子どもが戦後、支援機関の調査員に語った物語は、まったくのでたらめであることがよくあった。それには正当な理由があった。当時、子どもは移住を認めるが、生き残った親には移住を認めない残酷な方針があった。そのため子どもは、不当な制度の要件に合致するように、自分の物語をつくり変えた。
アウシュヴィッツを体験し、生きのびた大人たちの多くは、その体験を語ろうとしなかったようです。あまりにも苛酷な体験だったから、消したても容易に消せない記憶と知りつつ、自分の口から言葉として語ることはできなかったのでしょう。
ところが、幼い子どもたちは、その体験を自分のコトバとして語ることが、そもそもできなかったのです。この違いは、大きいというか、両者に違いがあるということをはっきり認識すべきだということを、この本を読んでしっかり確認することができました。
ユダヤ人幼年時ホロコースト生存者世界連盟という組織があるそうです(1997年に発足)。4大陸15ヶ国・53団体が加盟。
それにしても、幼い子どもたちを大量に抹殺していったヒトラー・ナチスの組織・体制の恐ろしさ、おぞましさには改めて身震いさせられます。そして、これは、今の日本で相変わらず横行しているヘイト・スピーチ、「嫌中・嫌韓」などに共通していることに思いが及ぶと暗然たる気分にもなってしまいます。もちろん、そんな気分に浸るばかりで、何もしないというわけにはいきません。
いろいろ考えさせられた本でした。
(2021年9月刊。税込3080円)

 日曜日、フランス語検定試験(準1級)を受けました。今回は、なんと受験者は11人のみ。いつもの半分以下です。これもコロナ禍なのでしょうか。
 会場の西南学院大学に早目に着くと、枯れ葉が足元でカサコソ、音を立てるのもいい感じでした。
 この1ヶ月ほど、必死で過去問を繰り返し復習しました(20年間分もあります)。そして、「傾向と対策」もちょこっとだけ。ともかく、単語を忘れています。本当に、「日々、新なり」という悲しい心境です。それでもボケ防止になります。この半端ない緊張感がたまりません。
 先ほど、自己採点したら、83点(120点満点)でした。6割で合格なので、次の口頭試問に進むことになりそうです。ひき続きがんばります。

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