弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年10月11日

生命海流

生物


(霧山昴)
著者 福岡 伸一 、 出版 朝日出版社

ええっ、このコロナ禍の下で、ガラパゴス諸島へ行ったのですか...。
『動的平衡』などの著者として有名な著者が、2020年3月、ガラパゴス諸島へ行き、船を一隻チャーターしてダーウィンの1ヶ月の航路を1週間でたどったのです。
実は、コロナ禍がひどくなる直前で、危機一髪だったのです。あと何日か遅れたら、エクアドルかどこかで缶詰めにされるところでした。
ガラパゴス諸島の航海図が本のはじめに添付されています。本当にたくさんの島から成っているのですね、初めて知りました。
島は全部で123島。主な島は13島ある。これが関東平野くらい広い範囲に分布している。この太平洋の島々は、プレートのせめぎ合いの上に生まれた。北側のココスプレート、南側のナスカプレート、この二つがぶつかり、地下からマグマを噴き上げる海底火山、ホットスポットが生み出された。そして、ナスカプレートの上に乗って島々は南東の方へゆっくりと動いていく。その速度は1年に5センチ。100万年の間隔で、次の火山活動が起きて新しい島の列ができる。
いやあ、ガラパゴスの島も生きているのですね。
このガラパゴス諸島は、エクアドルの領土。移民を送り込んで定住させたが、大変な困難をともなった。まあ、アメリカ領土になっていたら、観光資源として「利用」され、貴重な生態系が滅茶苦茶になっていたことだろうと著者は指摘しています。
ガラパゴスの生物も砂も、一切がもち出し禁止。そして、外部からの持ち込みがないよう、靴の底の泥まで洗浄させられるのです。
ときどき不心得の観光客(収集マニアなど)が持ち出しを試みて捕まっています。日本人もいるようです。泣いて謝罪したというのですが、そんなことで許されるはずもありません。世の中を甘くみてはいけません。エルサルバドルの刑務所に入れられた日本人は、果たして生きて出てこれるのでしょうか...。
ガラパゴスにすむゾウガメは、ふだんは高度1千メートルの火山のカルデラ内外にいる。ゾウガメは草食。高地からエサを求めて何日もかけて下りてくる。ゾウガメは一度エサをとると、水やエサを与えなくても1年近く生きている。
ダーウィンたちはゾウガメを食べた。「なかなかの味だった」と評している。
ゾウガメは、卵のとき、赤ちゃんガメのときには天敵に食べられる心配があるが、それを過ぎたら、もはや天敵はいない。サボテンやリンゴを食べながら、ゆっくり長生きする。ゾウガメの最大寿命は200年。体長1メートル、体重300キロにまで成長する。いやはや、途方もないことです。
そして、このゾウガメの祖先は南米大陸にすむリクガメ。でもリクガメは泳げない。なにかの自然災害が起きて、付近の植物がイカダの役割をしてリクガメがガラパゴス島に流れついたのではないかと想像されている。
ガラパゴス諸島の生き物たちは人間を恐れない。恐れないどころか、近くにやってきて、一緒に遊ぼうよと、ちょっかいをかけてきたり、好奇心旺盛だ。
著書は空を飛ぶグンカンドリの行動をみて、一緒につきあってくれたと解しました。
また、海中ではアシカが寄ってきて、足のフィンに甘がみしたりして、一緒に遊ぼうよと誘ってきた。小鳥だって、そうだ...。
ガラパゴス諸島をチャーター船で1週間かけて巡るなんて、これぞまさしく究極の理想の旅ですよね。船のトイレに苦労したり、真水シャワーが少なかったりの不便はあるものの、三度三度の豪華な食事、そして海を眺めながらのビールなど、これほどの極上の旅はないでしょう。プロのカメラマンによる写真もまたすばらしく、ガラパゴス諸島を紹介する決定版の一つです。いやあ、実にうらやましい限りです...。
(2021年6月刊。税込2090円)

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