弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年10月10日

星落ちて、なお

明治


(霧山昴)
著者 澤田 瞳子 、 出版 文芸春秋

江戸時代に生きた葛飾北斎、歌川国芳、そして明治まで生きた河鍋暁斎。いずれも著名な画家。
その暁斎のあとを継ぐべき兄の周三郎と妹のとよは、よそよそしい関係にあります。
いずれも父・暁斎に反発しながらも、画家としての道を歩んでいくのですが...。
いやあ、うまい展開です。さすが直木賞を受賞したというだけはあります。画家の道をきわめることの大変さ、偉大な父親をもった子どもたちの大変な苦労、そして兄と妹との葛藤...、家族って、いったいなんだ...と思わず我が身を振り返らされるストーリーです。
錦絵を得意とする歌川国芳を最初の師とし、その後、写生を重んじる狩野家で厳しい修行を積んだ暁斎は、やまと絵から漢画、墨画まで、さまざまな画風を自在に操った。風俗画に狂画(戯画)、動物画、...あげくに版画から引幕まで、暁斎は何でもこなした。
暁斎は画鬼と自称し、天下の絵師を百人集めたかと思うほど多彩な絵を描いた。
暁斎は、その体内の血の代わりに墨(すみ)が流れているのではないかと案じられるほど、絵のことしか考えない男だった。
娘のとよも、河鍋暁翠(きょうすい)として、世に歩み出した。
この本の表紙は暁翠の「五節句之内、文月」ですが、まったく江戸時代の絵そのものです。とても明治の半ば以降に描かれたものとは思えません。古臭いというのではありません。時代を超絶した江戸情緒たっぷりの絵に圧倒されてしまうのです。
暁翠は女子美大で女学生に絵を教えたようです。
よくぞ、一代記を小説にしたものです。驚嘆してしまいました。
(2021年7月刊。税込1925円)

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