弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年9月25日

アンブレイカブル

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 柳 広司 、 出版 角川書店

もちろん小説だということは読みはじめる前に分かっていました。でも、てっきり現代社会のどこかを舞台としていると思っていたのです。ところが、実は舞台は戦前の北海道、しかも、蟹(かに)工船で働いていたことのある経験者が、なんと、あの小林多喜二に対して作業の実際を語るところから話は始まるのです。ええっ、この小説は小林多喜二がまだ銀行員だったとき、作家としての取材をどうやってしていたのか、から始まるのか...、驚きました。
語る体験者は2人。いずれもスネに傷をもつ身なので、目の前の大金が欲しいのです。そのため、小林多喜二に蟹工船での作業実態を語るのですが、それには実はウラがあって...。うむむ、この本は国家権力による思想統制の怖さに自然に読者の目が向くように仕組まれています。そして、それが自然な流れなのです。さすが、です。
次は戦前の反戦詩人としてそれなりに有名な鶴彬(つる・あきら)と憲兵大尉、そして特高との関わりあいの話です。展開が予想以上に速いので、ついていくのも大変です。
ときはゾルゲ事件が摘発された翌年です。
それにしても、戦前の特高警察って、怖いですよね。なにしろ何ら罪のない人々を捕まえては、ときによっては拷問を加えてでも罪を「自白」させ、刑務所に閉じ込め、また人間としての精神・身体のいずれもボロボロにしてしまうのですから...。
問題は、それが遠い過去のことであって、現代とは何の相互関連性はないとは言い切れないことです。これって、本当にゾクゾクするほどの怖さがあります。要するに、自分のやった本来なら正当な行為が、刑事処罰の対象であり、決して文句は言えない。いやはや、怖い、怖すぎます。
(2021年1月刊。税込1980円)

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