弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年9月19日

日本語とにらめっこ

人間


(霧山昴)
著者 モハメド・オマル・アブディン 、 出版 白水社

アフリカのスーダンからやってきた全盲の青年が、どうやって日本語を身につけたのかが改めてインタビュー形式で語られた本です。著者の本は、前に『わが盲想』(ポプラ社)を読んで大変面白く、このコーナーでも紹介しました。
日本で暮らしているということは、お笑いの文化の中で生きているようなもの。異文化に触れたとき、自分と違う文化に出会ったときは、全部それが何かおかしく感じてしまう。日本人にとっては何でもないことが、笑いの対象になってしまう。まず自分の中で笑い、それを言葉にして表現する。最初に書くときは、読者を想定しないで書く。
日本の論文は読みにくい。それは、結論が最後に来るから。結論を初めにもって来ると、すごく分かりやすくなる。この先、いったいどこに連れていかれるか分からないというのは困る。
スーダンには、コーランを教える伝統的な寺子屋みたいなところがある。ハルワという。ここではコーランを暗誦するだけでなく、読み書きも仕込まれる。6歳までにアラビア語がうまくなるのは、ハルワでコーランを覚えるのと同時に、アラビア語を正しく書くことも訓練していたから。コーランだけでなく、古い詩などでも暗誦したりしていたので、アラビア語がとてもうまくなる。
著者は夏目漱石の『坊ちゃん』、『三四郎』などの読み聞かせをしてもらって、漱石の偉大さを体得したようです。
漱石には文体の力がある。漱石は、歴史的背景を知らなくても楽しめるところがすばらしい。
スーダンでの著者は、19歳まで、教科書以外の本は5冊も読んでいない。盲目の子にとって図書館が近寄りがたい存在だった。
著者は書きはじめるまでに相当の時間がかかる。ただ、書きだしたら、一気に書きあげる。メモはとらないで、頭の中で考える。
変な野望があると、いいものは書けない。うまい日本語をつかって書こうと思ってもダメ。自分の中から湧いて出てくるものを書くとよい。そのとき、難しい言葉は使わない。分かりやすい言葉で分かりやすく書く。
著者の書いた文章は、日本語の表現が魅力的。書き言葉の中に話し言葉を入れこむ特徴、功名な緩急、歯切れの良さ。つっこみに関西弁や得意のおやじギャグが入ったり...。
東京外国語大学に入り、大学院に進学しているうちに『わが盲想』を書き(2013年)、国際学の客員教授としても活躍しました。
アフリカ・スーダンからやってきた全盲の青年が日本社会に溶け込むとき、どんなに苦労するかが詳しく語られていて、大変勉強になりました。今後のさらなる健勝とご活躍を心より祈念します。
(2021年4月刊。税込2200円)

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