弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2021年9月21日

バレット博士の脳科学教室


(霧山昴)
著者 リサ・フェルドマン・バレット 、 出版 紀伊國屋書店

脳のもっとも重要な仕事は、エネルギーの需要が生じる前に予測しておくことで、身体をコントロールすることにある。つまり、脳のもっとも重要な仕事は、考えることではなく、恐ろしく複雑化した、もとは小さな生物の身体を運用することにある。
脳が3つの層からなるという考えは、1990年代に、専門家によって完全に否定された。
理性的思考という特別な能力をもつことで、人間は動物的な本性を克服し、今や地球を支配するに至った。こんな三位一体脳説は完全に間違っている。そうではなく、脳は、たったひとつの巨大で柔軟な構造へと結合された1280億のニューロンからなるネットワークなのだ。
1280億のニューロンは、発火することで、日夜、継続的に連絡をとりあっている
ニューロンが発火すると、電気シグナルが幹を伝って根の部分に達する。シグナルを受けとった根の部分は、シナプスと呼ばれるニューロンとニューロンの隙間に科学物質を分泌する。分泌された化学物質は隙間を渡り、相手ニューロンの灌木の枝のような先端に取りつく。すると、受け手のニューロンが発火し、それによってニューロンからニューロンへと情報が伝達される。
脳のネットワークは、常にオンの状態にある。すべてのニューロンが、その支配を通じて常に会話している。脳のネットワークは、固定されておらず、常に変化している。めまぐるしく変化している部位もある。脳の配線は、ニューロン間の局所的な結合を補完する化学物質に浸されている。
人間の新生児は、いわば建設中の脳をもって生まれてくる。25年くらいかけて主な配線を完了するまで、人間の脳が成人段階の完全な構造や機能をもつことはない。
いかなる人間の性質についても、遺伝子か環境かのどちらか一方に原因を求めることはできない。どちらも非常に深くからみあっているため、生まれや育ちのような言葉で区別しても無益だ。
育児の要諦(ようてい)のひとつは、介入すべきとき、すべきでないときの見きわめにある。乳児の脳は、食料と水さえ与えておけば正常に発達するというものではない。アイコンタクトや言葉そして肌の触れあいを通じて、社会的ニーズを満たしてやる必要がある。
長期にわたる慢性ストレスは脳に損傷を与えうる。侮辱や脅しを受けている人は病気にかかりやすくなる。言葉は脳に物質的な損傷を与えうる。ストレスは実際に人を太らせる。
神経系の最良の味方は、他者であり、最悪の敵も他者だ。
人間の大脳皮質の配線は圧縮を、圧縮は感覚結合を、感覚結合は抽象を可能にする。抽象は、高度に複雑化した人間の脳が、物理的な形態にもとづくのではなく、機能にもとづいた柔軟な予測を発することを可能にする。これが創造性だ。
人は、コミュニケーション、協力、模倣を通じて予測を共有することが可能なのだ。
脳のはたらきについて、さらに一歩、認識を深めることができました。
(2021年6月刊。税込1980円)

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